【異色のピアニストで話題! 角野隼斗さんインタビュー】ずっとクラシック音楽の世界にいたら抱かなかった疑問、その答えを探して
音楽でも、研究者的なマインドを活かす
中学時代から動画を投稿したり、初めてニューヨークを訪れた1年後には住んでいたり、角野さんは興味を持ってから行動に移すまでが早いように見えます。
「動画の投稿はインターネットを見回すと結構そういう人がいて、自分もやってみたいな、そんな気軽な気持ちでした。それに限らずですが、やるか、やらないか? 迷ったときはたいていやります。だって、やったほうがいい。待つ時間があるなら、早く決断したほうが得るものが多いですから」
では、大学院生時代に音楽情報処理を研究したことは、ピアニストとしての活動と相互作用のようなものがあるのでしょうか?
「関係は、ありますね。いろいろな形で。音楽に関連する研究で、大学1年のときはフランスに半年間留学していましたし。そうして得た知識がそのまま活きることはあります。もっと言うと、そのときに身につけた研究者的なマインドというのか……。どの研究者も、自分は新しい何かをこの世界に少しだけ付け足せるか? 論文を書くことで成し遂げようとします。同じような考え方を、音楽でもしているのかもしれません」
クラシックのピアニストは、過去の作曲家が生み出した曲を、その楽譜通りに演奏するもの。しかし角野さんは自分なりの解釈で、技術を駆使し、自分なりに新しい何かを表現しようとし、作曲も手掛けます。
「クラシック音楽というものは100年前から、やっていることはほとんど変わらないわけですが、この時代にもそのままでいいのかどうか。変わっていかなければいけない部分は必ずあるはずで、ずっとクラシックの世界にいたら、そんな疑問は抱かなかったかもしれません」
YouTuberとしての活動は、まさにその疑問から行動を起こしたことのひとつ。そこには自己プロデュースの面もあるそう。今の時代に、クラシックのピアニストとして第一線で生きるためにはどうするか? どうしたら唯一の価値を世の中に提供できるか? ピアニストとしての‟個性”、それを突き詰めて考え続けています。
角野さんはやはり演奏でもより頭を使うタイプ? 論理的な構築と、ジャズも手掛けることから、即興的、感覚に寄るところとどちらが大きいのか尋ねると、「バランス型かもしれません」と自己分析する。そんな彼はこの映画に、どんな感情を抱いたのでしょう?
「直視出来ず、2時間ほどをチラ見しました(笑)。面白いなと思いましたけど、自分が話しているところというのはまともに観られません。照れくさいんですよね」
PROFILE 角野隼斗(すみの・はやと)
1995年生まれ、千葉県出身。2018年、東京大学大学院在学中に出場したピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ受賞。2021年、ショパン国際ピアノコンクールでセミファイル進出を果たす。YouTubeでは登録者数144万人(2025年2月現在)を突破。昨年3月にはソニークラシカルと契約を結び、10月にはデビューアルバムをワールドワイド・リリースした。
映画『角野隼斗ドキュメンタリーフィルム 不確かな軌跡』
●監督:望月馨
●配給:BSフジ、ローソン・ユナイテッドシネマ
●2月28日~ほか全国公開
©角野隼斗ドキュメンタリーフィルム製作委員会
撮影/本多晃子 スタイリング/金野春奈(foo) ヘアメイク/川口陽子 取材・文/浅見祥子
この記事を書いた人
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