「時間」を体感する壮大な展覧会
編集部が推す今見るべき展覧会3選
昨年、開館20周年を迎えた金沢21世紀美術館で開催中の『積層する時間:この世界を描くこと』。
絵画、ドローイング、動画など多彩なアプローチによって複数の時間と記憶を描き出すという、新しい試みです。
本展では、過去の歴史や記憶、現在という時間、あるいは未確定な未来について、様々な時間を取り上げることで私たちの「世界」の様相を浮かび上がらせます。
複数の手法を使って、過去の出来事への鋭い批評、土地が持つ歴史や神話、植民地化や戦争の歴史、風景や自然の中に潜在する過去との接続や時間の流れ、生命の時間など、アーティストそれぞれの問題意識や関心から複数の積層した時間が描き出された作品を紹介します。
「描くこと」は美術の歴史の中でも最も古くから行われてきた表現行為の一つであり、今なお美術の中心部を成しています。
ドローイングを何枚も描いたり、絵の具を重ねイメージを導き出したり、画面にオブジェや自然の素材を重ねたり、描く方法も多様化しています。
描かれたイメージを連続させるアニメーションや版木を彫って画面を作り上げる版画なども「描く」行為の一部といえます。
描くことは、それ自体に多くの時間を費やし、物理的な素材やイメージを幾層にも重ねながら画面の深部へと鑑賞者を誘います。
本展の見どころの一つに、当館交流ゾーンに設置された淺井裕介さんの新作壁画があります。約1か月の滞在制作で、能登半島で採取した色とりどりの土を使って、地元のボランティアの皆さんと一緒に描いた壁画です。能登半島で起きた地震、その土地の記憶、そしてそこで生きる人々の記憶が土に込められています。
制作中、多くのボランティアの方々が共に過ごした時間もまた、壁画の中に流れる大切な時間と言えるでしょう。
全16作家によって描かれた数々の時間の層をぜひご堪能ください。
トップ掲載写真:淺井裕介《 星、飛ビ散ル/太陽の一番近くへ》2024
撮影:東 千尋
教えてくれたのは・・・
金沢21世紀美術館
キュレーター/レジストラー
野中祐美子さん
清須市はるひ美術館学芸員を経て2014年12月より現職。近年の主な展覧会は『Lines:意識を流れに合わせる』(2024)、『村上慧:移住を生活する』(2020-21)、『現在地:未来の地図を描くために』(2019-20)、『泉太郎 突然の子供』(2017-18)など。
『積層する時間:
この世界を描くこと』
場所: 金沢21世紀美術館(石川県)
開催:開催中~ 9月28日(日)
開館 :10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
閉館 : 月曜日(ただし7月21日、8月11日、9月15日は開場)、7月22日、8月12日、9月16日
☎︎ 076-220-2800
この記事のキーワード