【親の介護・看取り】
在宅医療の専門医に聞くリアルな現場
親の最期に立ち会うために、知っておきたいこと<後編>
親子関係は人それぞれ。
悲しみは乗り越えるのではなく共に生きる
――親が自宅で死にたいと言った場合、どう準備しておけばいいのでしょうか。
岡山:準備といっても、現実的なことはできないので、プロに“丸投げ”が正解です。病院の「地域連携室」に行くか、看護師に相談すればそこから動いていきます。訪問診療の事業者選びは、担当者と話が通じるかどうかが大切です。「この人にいくら言っても話が通じない」と感じたら、替えてもらいましょう。ただ、都市部は事業者も多いですが、地方は限られているので選ぶのは難しいかもしれません。
――最後までお任せできる相手を見つけることですね。親との関係によっても、看取りの形は変わるでしょうか。
岡山:まず、看取る側の死生観が影響します。グリーフケア(肉親の死など大きな悲しみを経験した人に寄り添い、立ち直りを支援すること)の考え方では、「亡くなった人は自分の心の中にいる」と考えます。よく「悲しみを乗り越える」と言いますが、よっこらしょと無理に乗り越えたとしても、悲しみはその場に置いてきぼりです。乗り越えるのはなく、背負って一緒に生きていくもの。ただ、心の中にいると思えず「(現実には)大好きなお母さんはもういない」としか思えない場合は、グリーフケアが進まないことがあります。
また、親子関係がよくない場合もありますね。私は、親を心の中では捨ててもいい場合もあると思います。分かり合えない親子にはそれなりの理由と歴史があるので。
ある女性は裕福な家のマダムでしたが、夫の遺産相続で娘ともめて、家を一人で飛び出し生活保護で暮らしていました。私たちの医療サービスを受けて「今がいちばん幸せ」と言っていたんですが、訪問の看護師が「親戚に連絡したほうがいい」と熱心に勧めていたんですね。でも、本人は「会いたないねん」と。看護師から「先生、説得してください」と言われたんですが、私は「なんで、あんた好みのビューティフルストーリーにせなあかんねん!」と叱ったんです。それでも看護師はあきらめなかったようで、説得を続けたらついにそのマダムがキレて「あんたら貧乏人に、お金を持っている苦しみは分からんわ!」って(笑)。遺産相続の問題はきっかけにすぎず、ずっと前から分かり合えない親子だったのでしょう。私たちは人生に介入できない。ただ寄り添うだけなんです。
親子関係がよくなくて、それでも捨てきれずに面倒を見る人へのアドバイスは、「できることを粛々とやる、できないことをくよくよしない」ということ。「無理はしないでいい、あんたはこのあとも生きていくんやで」と、友だちとしてではなく専門職の私たちが言うことに、意味があるのかなと思っています。
――ご自身の親を看取られて、今までの経験と違った部分もありましたか。
岡山:それが、驚くほど変わらなかったんです。動揺や葛藤はいつもあります。「進行が思ったより早いな」とか「この状態なら、どの薬を使ったらいいんだろう」とか「患者さんを見ていて涙がうるんでくる」とか。私はいつも、患者さんに対して、自分の家族のつもりで接しています。惚れっぽくて(笑)、患者さんのことが大好きになるんです。でも、玄関ドアを閉めるとパッと切り替わる。この仕事に向いているのだと思います(笑)。
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田中絵真
フリーライター田中絵真
暮らしまわり、ヘルスケアの記事を多く執筆。
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