江戸絵画のかわいい【子犬】が大集合!
伊藤若冲・円山応挙・長沢芦雪 人気絵師の子犬を専門家が紐解く
今も昔も、日本人は”かわいいもの”が好き
一方、若冲と同時期に京都一の売れっ子として活躍し、多くの弟子を育てたのが応挙。
「人物から花、鳥、山水まで幅広い題材を手がけた応挙ですが、実は子犬の絵も多いのです。本当に子犬が遊んでいるような、リアルな動きが切り取られています。江戸時代の動
物画の多くは、中国・朝鮮の絵画の影響を受け、ポーズのパターンが決まっているのですが、応挙の場合は無限にバリエーションがあるんですよね」
その応挙の一番弟子が、多くの動物画を描いた芦雪。
「初めは応挙そっくりの絵を描いていましたが、あるときから独特の筆づかいで〝ゆるい〟子犬を描き始めます。このラフに崩した描き方はなぜか継承する人が現れませんでし
たが、3人とも、当時の一流画家がそれぞれに子犬の愛らしい仕草や表情を追求している。昔も今も日本人は〝かわいいもの〟が好きで、それを絵に描いて楽しんできたことがわかります」
愛に満ちた視点でリアルなかわいさを追求
円山応挙
『雪中狗子図』
(個人蔵)
雪の中でじゃれあう子犬たちがかわいらしい一作。
「応挙46歳の作。仲間に噛まれながら笑っているような表情は、見ている側も脱力してしまう愛らしさ。絵になるポーズや仕草を一瞬でつかみ取れるのも応挙のすごさです」
”ゆるい子犬”という新たなスタイルを確立
長沢芦雪
『狗児図扇面』(本間美術館)
ペロリと舌を出してお腹を見せているポーズと、筆を寝かせて描いた線は、現代の“ヘタウママンガ”にも通じるゆるさ。
「子犬というよりも酔っ払ったおじさんのよう。これが扇子に描かれているのも面白いところです」
『狗子図』(個人蔵)
リラックスしたポーズと描線は、芦雪の“ゆるい子犬”の集大成とも言えそう。
「師匠である応挙そっくりの絵も描くことができる芦雪が、あるときからゆるいタッチで描くようになった。その変遷も興味深いところです」
応挙と芦雪の”かわいい”はここが違う!
ともに“かわいいもの好き” であったであろう応挙と芦雪ですが、それぞれの印象は大きく異なります。
「応挙は目の輪郭を薄い墨を重ねて描くことで、うるうるしたけなげな表情になっています。芦雪は濃い墨で描くことで、やんちゃでユーモラスな印象に」
1. 円山応挙『雪中狗子図』〈部分〉(個人蔵)
2. 長沢芦雪『狗子図』〈部分〉
(摘水軒記念文化振興財団)
文・工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2025年8月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
- 1
- 2
この記事のキーワード