【ブレイディみかこさんインタビュー〈後編〉】
女性同士のつながりが人生を変える!
シスターフッドは身近なところから
ⓒK.M.S.P./PIXTA
自己肯定感が低く自分を愛せない悩みは、
50代も20、30代も同じ
―――シスターフッドのネットワークを築きたくても、自己評価が低い、自分を愛せない、コミュニティにも入っていけない、と悩んでいる50代読者もいます。
ブレイディ 私は20代、30代の女性たちと定期的にオンラインで悩みを聞く機会がありますが、まったく同じことを悩んでいますよ、彼女たちも。いまの若い世代は、「失敗したくない」という気持ちからか、どこか遊びに行くにしても、前もって動画で体験してから後で追体験しますよね。行ったことのない場所に行くとか、初めての人に会ってみることから、新しい何かが始まるのに。だから、「あんまり下調べしないほうがいいよ」と私はよく伝えます。
―――50代女性はいろいろな体験をしていてきたからこそ「こうなるともうダメかも」と自分でシャッターを下ろしがちですが。
ブレイディ いや、それは20代、30代も同じですよ。いまの若い世代は、実体験はないんだけれど、テクノロジーでなんでも下調べするせいで、精神的には無鉄砲さがなくなっていて、若年寄りみたいになっている気がします。
―――自己評価を高めて、自己肯定感を上げるにはどうしたらいいのでしょうか。
ブレイディ それは小さなことでもいいので、新しい扉を開けること。行ったことのない駅で降りてもいいし、下調べしないで「なんか感じいいな」と直感したカフェに入ってもいいと思う。それがきっかけでシスターフッドのネットワークが築けたり、新しいコミュニティが見つかるかもしれません。シスター❝フット❞をタイトルにしたので、そこは「足元」から探してみるのもいいと思いますね。たとえば、親族のシスターフットとか。大人になったからこそ、従姉妹とつながるのもいいかもしれないです。
―――家庭でもなく、職場でもない、第三の居場所、サードプレイスを作れたらいいのですが……。
ブレイディ 友だちに誘われたら、一回は行ってみるというのはどうでしょう。❝私の世界じゃない❞と尻込みするものに限って、行ってみたら意外にそうじゃないこともあるし。そこから新たな世界が広がるかもしれない。イギリスにはパブという独特の文化があって、まさに正式名称がパブリックハウスだから。日本の人たちは、パブはおじさんがお酒を飲むところとイメージするようですが、女性たちもちゃんと来ています。そこで飲みながら会話をして仲良くなることもありますよ。
日本でもサードプレイスがたくさんできるといいですよね。兆しが見えるのが小さな書店。そこで読書会を開いたり、自分の棚を作ったりと、コミュニティプレイスになりつつあります。サードプレイスが発達している場所は、民主主義が成熟しているらしいんですよ。人々が集まって意見交換したり、情報交換したり、いろいろ話し合える場所があると、そこが基盤になって「何か一緒やりましょう」「小さなことから社会を変えていきましょう」とシスターフッドにつながることもあると思います。
―――ところで、ブレイディさん著の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で中学生だった息子さんは、大学生になられたそうですね。
ブレイディ 今年の夏休みに、大学の友人と一緒に私の実家がある福岡に帰省しました。そのとき、ウーバーのアプリで呼んだ「モハメドさん」というタクシードライバーと、息子の友人が熱心に語り合っていました。ロンドンではタクシードライバーと会話することなんてないのに、日本で話し合えたことを喜んでいました。うちの父は建築業で家を建てるビルダー。そんな父とも、言葉は通じなくても居酒屋で一緒に食事をして盛り上がっていました。息子の友人は父親が官僚で、本人も将来は官僚になる進路にいます。そんな彼が、日本の地方都市で「他者の靴をはく」ようなエンパシーを感じるコミュニケーションができたことは、よい機会になったと思います。
ブレイディみかこさん
ライター、コラムニスト 1996年からイギリス在住。2017年『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で第16回新潮ドキュメント賞受賞。2018年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース/本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品は『私労働小説 ザ・ショット・ジョブ』や『両手にトカレフ』など。近著には『地べたから考える――世界はそこだけじゃないから』。BBC放送の連続TVドラマ『EastEnders(イーストエンダーズ)』の大ファン。
ⓒShu Tomioka
『SISTER❝FOOT❞EMPATHY(シスター❝フット❞ エンパシー)』
著/ブレイディみかこ
¥1,600+税(集英社)
「他者の靴をはく」ように相手の立場に立ち、理解し合う。エンパシー力とシスターフッド力をかけ合わせたら、きっと人生が好転する。そう信じたくなる一冊。アイスランド発の「ウィメンズ・ストライキ」の女性たちの結束をはじめ、シスターフッドのドレスコードについて、焼き芋とドーナツから考える労働環境など、読むと❝自分らしく生きてみよう❞と力が湧いてくる39篇のエッセイを収録。
ⓒShu Tomioka
写真提供/集英社 取材・文/田村幸子
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