【酒井順子さん】エッセイ
「久々に味わった『悔しい』という気持ち
趣味で卓球をしています。
中学時代に卓球部だったことから、昔とった杵柄ならぬラケットを、再び握っているのです。
コーチとマンツーマンで打ち合う、という練習を月に数度して、はや数年。
練習だけでも楽しいのですが、一方でフツフツと湧いてくるのが、「腕試しをしてみたい」という欲求です。
そんなある時に卓球好きの人と仕事で知り合い、一緒に試合に出てみますか、ということになりました。
その方によれば、今は個人が主催している小さな草試合がたくさんあって、アプリを通じて申し込むことができるのだそう。
へぇ……とアプリを見てみると、なるほど様々な場所で、様々な試合が行われています。
思い切って、その中の一つに出場してみることにした我々。
とはいえ初めての経験なので、どんな人が出場しているのかはわかりません。
少し緊張しながら当日を迎え、会場の体育館のドアを開けてみると……。
すでに練習を始めていたのは、かなり若く、かなり上手な人達だったのでした。
「わ、わかい!」
「う、うまい!」
「ゼ、ゼット世代!」と、五十代の我々は顔を見合わせました。
その上、男女混合マッチなのに、いるのはほとんど男性ではありませんか。
考えてみれば、アプリを通じて申し込むというシステム自体、中高年を弾くものとなっているのかも。
あまりの場違いさに帰りたくなったものの、ここで退散しては女がすたる、と自らを叱咤し
ました。
いよいよ最初の試合を迎えると、あっという間に負け。
次の試合も、高速で負けた。
が、調子が出てきたのか、三試合目以降は、少し勝負らしい展開になってきました。
フルセットまでもつれ込む試合もあって、結果としては五戦全敗ながらも、ちょっとだけ手応えはあったかも。
全ての試合を終えた後に全身を覆っていたのは、普段の生活では味わわないタイプの疲労感でした。
緊張の中で動いたことによって、変な負担が身体にかかっていたようです。
「悔しい」という気持ちも、久しぶりに味わいました。全敗とはいえ、勝てた試合もあった。
もっとあそこでああしていれば……という悔しさが湧き上がってきたのは、大学の運動部(卓球ではない)の時以来か。
疲労と悔しさに包まれながら、私は「試合って楽しい」と思っていました。
言いたいこともはっきりと言いづらいモヤモヤした時代において、実力ではっきり勝ち負けがつくことの、何と爽やかなことか。
初勝利までは遠い道程かもしれませんが、また申し込んでしまいそうな気がしてならないのでした。
酒井順子さん
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。大学卒業後、
広告会社勤務を経て執筆業に専念。2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。
近著に『老いを読む、老いを書く』(講談社)、『松本清張の女たち』(新潮社)。
文/酒井順子 イラスト/升ノ内朝子
大人のおしゃれ手帖2026年1月号より抜粋
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この記事を書いた人
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