書き手の追伸 ~桜井 莞子さん~
「おいしい料理」がつなぐさまざまな出合いが人生の扉を軽やかに開いていく……。
食通に愛される青山の「ごはんやパロル」の店主、桜井莞子(えみこ)さんの生き方は、更年期世代の道しるべです。
好奇心を絶やさないことが人生を素敵にしてくれる
「ごはんやパロル」の店主、桜井莞子さんの79年の人生を振り返り、思い出の料理の数々とともにまとめたエッセイには、目まぐるしく変化する時代の中で、よく食べ、よく遊び、魅力的な人々に囲まれて歩んだ女性の日常がいきいきと描かれています。
桜井さんは「日々のごはん」に光をあてた料理家のパイオニア的な存在。
私たち世代のバイブル、雑誌『Olive』で最初に料理ページを担当したのも桜井さんです。
「結婚したばっかりで、まだ料理もそんなに上手じゃなかったから、ぺっちゃんこのオムライスができあがって。でもそれが雑誌で紹介されたのよね。いい時代だわ(笑)」
40歳でケータリング会社を立ち上げ、51歳で西麻布に初めて料理店を開店。
60歳で一度仕事を辞め伊豆高原へ移住したものの、東京へ戻り、今のお店を開店したのが、なんと71歳。
何歳からでも新しいことを始められる。
その姿は足踏みしがちな私たち世代の背中をぐっと押してくれるようです。
「48歳からの12年間は人生で最も忙しかった。朝から晩まで働いて、仕事が終わってもまだ飲みに行きたいんだから、困っちゃうわよね(笑)。健康にも恵まれて、生まれて初めてインフルエンザになったのも73歳だもの(笑)」
好奇心の衰えや倦怠感、更年期の揺らぎはなかったのでしょうか。
「私の嫌いな言葉の中に『面倒くさい』があるんだけど、それに身を任せてしまうと、どんどん生活が崩れちゃう。外にでかけなくなるし、部屋も散らかってくるの。私の中には『面倒くさい』はないものとしてる。雨の日も面倒くさがらずに出かけちゃう。雨の日ならではの楽しいことが待っているかもしれないじゃない?(笑)」
よどんだ空気も一気に吹き飛ばしてくれるような笑顔。
この笑顔を見たくて桜井さんの周りには人が集まります。
「私、人が大好きなの。おいしいものと人との出会いが楽しいことを運んで来てくれる。苦しい時期ももちろんあるけど、新しいことが起こると、苦しいことを上書きしてくれるの。足が痛い、腰が痛いとか、これから面倒くさいことがいろいろ起きてくるのかもしれないけど、80歳だってまだまだだなって、このごろ思えるようになったのよね。食べ物の仕事って作業が多いのよ、段取りとか頭も使うしね。だからボケ防止になってるかもね(笑)」
『79歳、食べて飲んで笑って
〜人生で大切なことは、みんな料理に教わった』
桜井 莞子
¥1,760(産業編集センター)
青山と伊豆で2拠点生活を送りながら、79歳の現在でも現役で店に立つ「ごはんやパロル」の店主、桜井莞子さんのエッセイ集。思い出の母の味を中心に、とっておきのレシピも10品紹介。年齢を重ねることの楽しさが詰まった1冊。
編集部が選んだ必読書!
「融通無碍(ゆうずうむげ)」を信条とする主人公の成長を描く青春篇
『なんとかしなくちゃ。青雲編』
恩田 陸
¥1,980(文藝春秋)
幼少から個性あふれる人々に囲まれ、独自のセオリーを持つ「おもろい子」に育った主人公・梯結子が、持ち前の発想と機転で「キモチワルイ」日常の問題を解決に導いていくさまは、とても爽快。思わず膝を打ちたくなる瞬間があるはず。
詩人の感性で拾い集めた生き物たちのちいさき声
『森の来訪者たち
北欧のコテージで見つけた生命の輝き』
著/ニーナ・バートン
訳/羽根 由
¥2,530(草思社)
スウェーデンの詩人・エッセイスト、ニーナ・バートンが、森に購入したコテージ。そこに集まる野生動物の行動を観察し思索するうちに、生き物たちがそれぞれ持つ独自のコミュニケーション能力、その素晴らしさに魅入られていきます。
文/鈴木香里 写真/白井裕介
大人のおしゃれ手帖2023年1月号より抜粋
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