書き手の追伸
~伊藤まさこさん~
スタイリストとして、暮らしにまつわる多くの本を出してきた伊藤まさこさん。
新刊では多様な食器棚を取材する中で、自身の器選びも変化。
年齢に応じた〝ものの循環〟も、心地よく暮らすヒントのようです。
十人十色の食器棚から
暮らしが垣間見える
「本棚を見ればその人がわかる」とはよく言われる言葉ですが、食器棚はもしかするとそれ以上に、住む人の暮らしや人生観をあぶり出すものかもしれません。
伊藤まさこさんの新刊『あっちこっち食器棚めぐり』は、「食べるのが好き」という共通点を持つ17組の自宅を訪ねて食器棚を見せてもらい、ともに食卓を囲む…というもの。
「食器棚を通して、普段の付き合いでは見えてこないプライベートな部分が垣間見えてくるのが面白くて。
相手と一緒に器を選んだり、盛り付けたりすることで、自分一人では思いつかないアイデアも得られました」
十人十色の食器棚を取材したことは、伊藤さん自身の食器棚にも大きな影響を及ぼしたそう。
「いろんな方の食器棚を見て意識するようになったのは、 “循環させる”こと。
私はスタイリストという仕事柄、ものとの出合いも多いし、買い物も好きなのでつい増やしがちだけど、よく見ると買った当時は気に入っていても、年齢や生活の変化とともに使わなくなったものがたくさんあるんですよね。
若い頃は、可愛いというだけで買っていたけど、今は“すっとしたきれいなもの”“研ぎ澄まされたもの”に惹かれるようになりました。
それに、コロナ禍になってからは自宅へ人を招く機会も減ったし、親しい人との食事なら、それほど気負う必要もない。
来客用の大きな器もいらないな、と思い切って手放しました」
そうした好みの変化は、器以外にも表れています。
「たとえば、昔はリネンのシーツが一番だと思っていたけど、今はシルクが好み。
服も流行りのものを身につける高揚感よりも、自分にしっくりなじむもの、着ていて気分がいいものに気持ちが向いています」
とはいえ、今の“好き”も絶対ではなく、いずれまた変化していくものとして、柔軟に捉えているという伊藤さん。
「先日、母から『もう私には重いから』とル・クルーゼの大鍋を譲られたんです。
確かに年を重ねると、必要な台所道具も変わるんですよね。
私はものを選ぶのが仕事ですから、その“年齢なりの暮らし”“年齢なりの欲しいもの”に興味がある。
数十年後にはおしゃれな杖を選んでいるかもしれません(笑)。
そうやって新たなテーマが見つかるのも、年を重ねる面白さです」
『あっちこっち食器棚めぐり』
伊藤まさこ ¥1,760(新潮社)
スタイリストの著者が17組のキッチンと食器棚を通じて得た、器選びや盛り付け、収納のヒントを紹介。
「取材中にコロナ禍となりリモート取材に切り替わりましたが、その時期の空気感も読み取ってもらえたら」と伊藤さん。
文/工藤花衣 写真/ⒸSHINCHOSHA
大人のおしゃれ手帖2022年8月号より
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