【Unthinking(アンシンキング)】体を癒やす、新しいアート体験
ハンモックにのってリラクゼーションを受けながら映像を鑑賞する――
《Unthinking(アンシンキング)》と名付けられた、この体験型の不思議なアートは、映像・写真作家の山根晋さんと、ハンモックリラクゼーションマッサージ考案者の小池信行さんのおふたりによるもの。「コロナ時代のお疲れモードを癒やしてくれそう」ということで、おしゃれな人たちの間で秘かに話題になっていて、都内でのイベントの機会に編集部も体験してみました。
体験後に、山根晋さんにお話をお伺いしました。
「アート」なのか「施術」なのか⁉
鑑賞施術時間は約40分。施術はハンモックに寝てゆらゆらと揺れながら受け、その間、前方のスクリーンに流れる映像を見るというもの。施術は足首→手首→頭、と末端をやさしくマッサージ。映像は施術の部位と重なるように、ダンサーの女性の脚、腕、頭がクローズアップ。ストーリーはなく、ひたすら身体の一部の動きをとらえた映像です。
――《Unthinking》はいつごろからスタートしていますか?
山根 2020年の夏から行っています。普段は鎌倉にあるギャラリーJohnで、2、3か月ごとに定期開催をしています。
――施術担当の小池さんとの出会いは?
山根 共通の友人が以前、葉山でHIMADA COFFEEという喫茶店をやっていまして、そこで開催された読書会で出会い、「何か映像で一緒にできたらいいね」と意気投合しました。
――施術と映像を組み合わせるアイデアは?
山根 当初は、小池くんが施術しているところを抽象的に捉える案もありましたが、それぞれの活動について意見を交わし、試行錯誤を重ねるうちに、自然と今の形になりました。
――《Unthinking》のコンセプトは?
山根 「知覚と感覚のズレあるいは重なり」をテーマにした映像作品と、長年の施術実積により開発された「ハンモックリラクゼーションマッサージ」を同時に受けていただく体験を、作品の基本としています。その意義は、アートと治癒の領域を重ね、新たな体験や表現の可能性を見出すことにあります。
――「知覚と感覚のズレあるいは重なり」とはどういうことでしょうか。
山根 施術を受けながら映像を見たときに、感じる流れのことをいっています。例えば、動物園でチンパンジーを見ているとします。視覚から入ってくる情報は、あぁチンパンジーだなぁと判断しているわけですが、類人猿であるチンパンジーに人と類似した雰囲気をなんとなく感じたとき、僕はゾワッとします。それがズレということで、そのズレがあるから重なりということにも意識がいくということです。
“いったん思考を止めて、自分に向き合う”
――《Unthinking》のタイトルの由来は?
山根 思考を休止させてみよう、です。考えをいったんやめてみる。感じ方がやってくるまで待ってみる、といったニュアンスがあります。
――今回、体験してみて、体験中は「施術されていること」に意識がいきました。痛いところはどこかな、といったような。最初は映像を見ていたのですが、心地よくなって寝てしまい……。が、映像と施術終了と同時にぱっと目が覚めて、なんだかスッキリした気がしました。後半は映像を見てないし、施術されてる感覚もなく……ですが、それでもいいのでしょうか。
山根 「考えをいったんやめてみる」といっても、思考が止まらなかったり、それこそ施術に重きを置いてしまったりすること、寝てしまうことは、すべて自然な反応。それがその人にとっての正解なのかなと思います。
――この体験はアートでしょうか? 施術なのでしょうか?
山根 どちらでもあって、どちらでもないといえますでしょうか。「映像」「施術」というカテゴリーを前提としたものではなくて、二つが混じりあって、でもそれぞれに芯となるようなところが表現、あるいは体験してもらえたらなと。
――映像は施術の順番(脚→腕→頭)と重なるように、女性ダンサーの脚、腕、頭がクローズアップ。ストーリーはなく、ひたすら身体の一部の動きをとらえた映像です。
山根 ダンサーが「何かに踊らされてしまう」「微細な環境設定によって、自然と身体が動いてしまう」、それが結果“踊る”ようになる、という意図が初めにありました。また、モノクロの映像にすることで、色という情報を引いて、よりシンプルになるかなと。
――映像を見て体験者にどのように感じてほしいでしょうか
僕の映像作品は時間がゆったりとしていて、普段、私たちが生きている時間を長く伸ばして見せているものが多いです。そこに何か、感じるものがあれば良いなと思います。
――今後の活動について
山根 今のところ次回の《Unthinking》は未定ですが、一つひとつの出逢いのなかで、自然な形で機会を作れたらと思っています。
profile
(写真左)山根 晋
映像・写真作家。神奈川県鎌倉市在住。映像や写真を主なメディアとし、自身の直接経験を反映させた作品を制作。近作に陶芸家・黒田泰蔵氏の作品を撮った《ENTO/MEIPIN》ほか。
(写真右)小池信行
神奈川県三浦郡葉山町在住。20歳のとき旅先で受けたタイ古式マッサージに深く感動したことがきっかけで、マッサージやボディーワークを通じて人やさまざまな出会いを喜びとする仕事に魅了され、セラピストの道へ。2010年、揺らし緩めることで起こる心と身体の解放を追求しているときにハンモックと出合い、ハンモックリラクゼーションマッサージを考案。現在は葉山町を拠点にしつつ、全国のイベントやホテル、カフェスペースなどでケータリングマッサージを中心に活動中。
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