【著者インタビュー】西川美和さん
「〝一発勝負〟の緊張感は映画づくりにも通じる」
『すばらしき世界』などの作品で知られる映画監督の西川美和さんが趣味のスポーツ観戦や時事問題など幅広いテーマで綴った新作エッセイ。
映画とスポーツの意外な共通点も興味深い一冊です。
〝一発勝負〟の緊張感は映画づくりにも通じる
映画監督の西川美和さんにとって、唯一の息抜きとなっているのが、スポーツ観戦。
「広島出身なのでカープはもちろん応援しますし、相撲も好き。でもテレビで中継していれば、どのスポーツでも楽しんで観ます」
映画とアスリートの世界はかけ離れているからこそ、気兼ねもなく楽しめる。
かつてはそう考えていた西川さんですが、観戦を続けるうちに、意外な共通点が見えてきたそう。
エッセイ『ハコウマに乗って』では、そうした映画監督ならではの視点から見た、スポーツの魅力が綴られています。
「厳密には、映画づくりに勝ち負けはありませんが、いざ現場に入ると一発勝負という局面も多い。そのときの緊張感はもしかしたら、試合中のアスリートと近い精神状態にあるかもしれません」
スポーツでは選手自身だけでなく監督の言動にも注目が集まるように、撮影現場でも「実は一番見られているのは俳優ではなく監督」と言われるそう。
そうしたプレッシャーの克服のために、アスリートの考えが役立つこともあるのでしょうか。
「自分の仕事に上手く活かせるかというと疑問ですが……(笑)。ただ、いろんな山や谷を経て、それでも良い成績、良いプレーを目指してどう戦うかという視点でアスリートの有り方を見るのは刺激になりますし、自分もそういう心の持ち様で乗り越えられたらいいなとは思いますね。
でもそれは映画監督だけではなく、あらゆる仕事や生活をしている人にとっても同じような効果があるのではないでしょうか」
エッセイの後半では、日常のエピソードに加え、映画界における労働環境の改善やハラスメント対策など、未来のための取り組みに着手していることも綴られます。
「男性社会と言われる映画界で生き残ってきたということは、私もそのやり方に無意識にアジャストしてきたからでしょうし、人に恵まれたり、運の強さもあったと思います。でも本来は運に左右されてはいけないし、貴重な才能や高い技術を持った人がいなくなるのは、映像界だけでなく、観る人にとっても損失。
今後はそういう人がこぼれ落ちないように、自分にできることをしていきたい。今の時代は価値観が大きく転換していて、私自身も当惑することはありますが、それを勉強することも面白いと感じています」
『ハコウマに乗って』
西川美和
¥1,980(文藝春秋)
スポーツの魅力のみならず、コロナ禍における観戦や映画製作の変化についても、当時の不安を交えつつ綴られたエッセイ。
「スポーツはあくまでも自分にとっての“サンクチュアリ”。アスリートとの接点は持たず、いち観客の目線で書こうと決めています」
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