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ミシェル・ブランが演じる孤独な中年男の純愛。ロマンスの名作
『仕立て屋の恋』
1991年暮れに東京・渋谷のル・シネマでパトリス・ルコント監督作『髪結いの亭主』(1990年)が公開されて大ヒットしたのを受けて、ルコント監督がその前に撮った作品として『仕立て屋の恋』が上映され、こちらも話題になりました。お世辞にもハンサムとは言えない地味で孤独な中年男が若い女性の部屋をのぞき見している物語ですが、この中年男を演じているのがミシェル・ブランです。
ある夜、公園で若い女性が殺される事件が起き、警察は仕立て屋のイールを疑います。イールは人嫌いで孤立している中年男で、日夜、向かいのアパートに暮らす若い女性アリス(サンドリーヌ・ボネール)をのぞき見しています。彼はアリスに恋をしていますが、ただ見ているだけなのです。そんなイールは、実は事件の真犯人を知っていました。ある時、アリスはイールが窓越しに見ていることに気付いて驚き、彼の部屋にやってきます。二人が対面したことで運命は狂いだし……。
変態ともいえる男の秘めた恋を官能的に描いたルコント監督らしい作品ですが、主人公を演じたブランの存在感が際立っています。イールは薄気味悪い男なのですが、彼のアリスに対する思いを知るにつれ、純粋で愛おしい存在に変わっていくのです。だからこそ、結末には涙があふれてしまいます。
ミシェル・ブランはこの作品以降、自ら監督・脚本・主演の三役をこなしたコメディ『他人のそら似』が第47回(1994年)カンヌ国際映画祭で脚本賞と高等技術院会賞を受賞するなど、多くの作品に携わり、活躍しました。
『仕立て屋の恋』
1989年製作
Amazon Prime Videoで配信中
© Cinéa/Hachette Première et Cie/FR3 Films Productions
構成・文
ライター中山恵子
ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。