【インタビュー】川口かおるさん
「限界まで頑張らずに心の声、体の声に気づく」
絵本が教えてくれたこと
閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。
今回お話を伺ったのは・・・
川口かおるさん
1974年、長崎県五島列島の福江島生まれ。大学卒業後中学校の国語教師として勤務し、出産を機に退職。その後、童話館へ。現在は、童話館出版と童話館の編集企画室室長。著書に、岩波ジュニアスタートブックス『中学生からの絵本のトリセツ』(岩波書店)がある。
https://douwakan.co.jp/
尊重しあえる同志に夫との新しい関係
今年50歳を迎える川口かおるさんは、社会人の娘と夫との3人暮らし。子育てを終え、自分の時間も持つようになった。
「ピアノを再開したり、一人で旅行に行くようになりました」 夫との新しい関係も始まった。
「ずっとすれ違いの生活でした。 平日が休みの彼と日曜日が休みの私。私が寝る頃に夫が帰ってきて、私が出かける時には彼はまだ寝ている。共働きですが、人それぞれ得意や苦手があるので、苦手なことをしてほしいとは思っていませんでした。
余力があるほうがやればいい。散らかっていると感じるラインも違うので、掃除なども強制したくはないし、むしろその違いがおもしろいと感じていて。
なかには『それでいいの?』という人もいたけど、まったく違う人間なんだって感じられるのは、嫌なことではないんですよね」
基本的には生活リズムが違うので、普段は面と向かって話すことは少ない。しかし最近は車で出かけて隣に座って並んで話すことも増えたという。
「以前は出かけるとなると家族3人でしたが、この頃は夫と2人が多いんです。以前は話といえば、仕事上のストレスのぶつけ合い、みたいな感じでしたが、今は最も厳しい意見を言ってくれる人であり、尊重しあえる同志みたいな関係です」
同世代の伴侶と、時間的にはすれ違いの生活ではあっても、それぞれの場所で、隣り合って同じ方向を向いて歩んでいる。
限界まで頑張らずに心の声、体の声に気づく
充実の50代をスタートしつつあるかおるさんだが、10年前の「見つめ直し」があったからこそ今があるという。
2014年、かおるさんが勤務する会社の社長が体調を崩し、しばらくして亡くなった。突然のことだったので、仕事が押し寄せ、かおるさんは「頑張って」しまった。
「この職場に入る時の面接で、れまでどんなことをやってきたかを説明するのに、学生時代の部活動で培った忍耐や努力について話しました。その時社長に『そうやって殴られたり怒鳴られたりしたことに耐えてきたことを美化するなんてバカだよ』って言われていたのに、いざ採用されたら頑張ってしまう自分がいて……」
そんなあるとき、大きなサインがあった。当時中学生だった娘が体調を崩して入院。実家の母に家事などを手伝ってもらいながら、仕事に穴を空けないようにした。
そして帰宅するとかおるさんはただただ寝ていた。
「母にありがとうという余裕もありませんでした」
優先していたはずの仕事でも、会報誌の執筆を休まざるを得ない状況になってしまった。何十年もの間、一度も休むことなく続けてきた、読者と絵本をつなぐ大切な仕事だった。
「何があってもこれだけはやらなくちゃって、私だけが思い込んでいたんですよね。会員さんたちは誰も休んだことを責めなかったし、周囲もむしろ心配してくれました」
そうして、かおるさんは「誰かに助けてもらうこと」と「できなくてもいいこと」を覚えたそうだ。
「子どもの時も私は、大人ののぞむ役割はこうだろうと先回りして、自分の感覚に目を向けないで、こなしているような子でした」
成長につれて何度もそのことに気づき、「自分の気持ちや感覚を鈍らせて器用に生きているつもりだったことを心から恥じた」のに、頑張り症のかおるさんはついつい頑張ってしまう。
けれども、2014年からの2年ほどにわたる「見つめ直し」を経て、小さな予兆に耳を澄ませるようになり、今50代を迎えようとしている。
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