【エッセイ】酒井順子さん
「某ブランドに今、突然目覚める」
今までの人生、ずいぶんと色々な服を着てきました。
基本的な好みは若い頃からさほど変わらないものの、流行や加齢とともに、着たい服や似合う服は、移ろいゆくのです。
昔は大好きだったけれど今はもう着なくなった、というブランドもあります。
そんなお店の前を通ると、どこか懐かしいような恥ずかしいような、言うならば元彼に会った時のような気持ちになるもの。
昔は大好きだったけれど次第に着なくなり、しかし時が経ってから改めて見てみたら意外に良かったので再び着るようになった、というブランドもあって、それはさしずめ元彼との復縁のようなものでしょうか。
が、しばらくすると「やっぱりここが嫌いだった」という部分が浮上し、また着なくなったりするわけですが。そんな中で私は先日、某ブランドの服を、生まれて初めて購入したのです。
それは、日本人のベテランデザイナーによるブランド。私の若い頃からそのブランドはありましたが、前衛的かつ哲学的イメージがあったため、ベーシックな服を好む私には無縁、と思い続けて何十年かが経っていたのです。
そんなブランドの服を試してみようと思ったのは、ある女性に会ったことがきっかけでした。その方は年上の主婦なのですが、いつお会いしてもとてもおしゃれ。聞けば、そのブランドがお好きということではありませんか。
彼女のファッションは、決して前衛的なわけでなく、ベーシックなアイテムが中心です。また、彼女からも尖った印象は漂いません。お話をしていると、「このブランドは、実はベーシックなものが良いのよ」ということなのです。
恐る恐るそのブランドのお店に入ってみると、なるほど彼女の言う通り。
前衛的デザインの服もある一方で、ごくシンプルなデザインの服も、少なくありません。
また、「おしゃれすぎて怖い」と昔から思っていた店員さん達も、話をしてみると優しくて、怖くない。そうして購入したのは、黒のプリーツスカートです。
シンプルかつ素敵なデザインであるのはもちろんのこと、海外ブランドのように高くもなく、ウェストはゴムで着心地もよい……ということで、さっそくヘビロテ服になりました。
とっつきにくくて苦手だった人とひょんなことから話してみたら意外に気が合ったかのようで、初めての一着が何だか嬉しい私。
イメージだけで避けているものの中にも、自分にフィットするものはある、という発見ができたのであり、これからちょくちょく、そのブランドの服を買いそうな気がしてならないのでした。
酒井順子さん
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆業に専念。2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。最新刊に『消費される階級』(集英社)。
illustration: Asako Masunouchi
この記事を書いた人
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