編集者とリフレクソロジスト
喜びが生まれる共通点【山村光春さん】
年齢を重ねると、いろんな役割が生まれたり、あたらしい自分自身に出会ったりするもの。
「こうでなければならない」に縛られず、多面性を持って生きるみなさんを、編集者の竹田理紀さんが取材する連載『私とワタシ』。生き方はひとつじゃない、興味の赴くままに生きることへのエールをお届けします。
今回は、編集者とリフレクソロジストの顔を持つ山村光春さんをご紹介します。
編集者・リフレクソロジスト
山村光春さん
編集者・執筆者・コピーライター。1970年大阪生まれ。BOOKLUCK代表。雑誌「Olive」(マガジンハウス)のライターを経て、現在は雑誌や広告、書籍、ウェブなどの編集・執筆をはじめ、講座やイベントなども数多く手掛ける。2013年よりリフレクソロジーの勉強を開始。リフレクソロジーユニット「FOOTLIGHT & GO.」を2015年よりスタートし、出張イベントなどで活動の幅を広げている。東京と福岡の両方に拠点を持ち、これからのよりよい暮らしを模索しながら活動。著書に『眺めのいいカフェ』(アスペクト)、編著として『MY STANDARD — 大人の自分定番』(主婦と生活社)など多数。2023年5月からはウェブとポッドキャストメディア「軸と時空」を友人の「あっこちゃん」と立ち上げ。
毎週日曜日に配信。http://bookluck.jp/
山村光春さんがキャストをつとめるメディア・「軸と時空」の私は大ファンである。山村さんは、90年代後半から続く「カフェ」「暮らしまわり」の媒体で、静かな存在感を放ってきた人。
私は山村さんの仕事ウォッチャーだった。企画、言葉選びから「これってもしや」と奥付を確かめると山村さんを見つけた。
編集者と執筆者のバランスを保ち、世界観がどう紡がれるのか知りたかった。
山村さんは大学時代、地元・大阪の情報誌のキャンパス特派員に採用されたことでキャリアをスタートする。小学生の頃から作文は得意で、初めての仕事も「自分の文体で書く」という意識を持っていたという。
「爪痕残したい、みたいな(笑)。とはいえ編集者に添削されそうになって、「直さないで」と直談判した覚えもあります(笑)」。今につながるエピソードだ。そして曰く「幸運のピーク」が訪れる。フリーのライターとして仕事で関わっていた雑誌「Olive」から編集部への誘いを受けて上京。そこからの経験が、のちの人生に続く「カフェ」「暮らしまわり」分野の強みを与えてくれたと山村さんは言う。
「カフェや暮らしのセンスとは何かを、たくさんの人に聴いてきたという知見が一つの束になった。その束を見て、まわりの人がその分野に明るいと認知してくれた」と。
求められ、誠実に応え続けていくことで、かたちとなる。上京して5年、単行本『カフェの話。』(アスペクト編集部)の依頼が舞い込んだ。「その仕事で編集の仕事も覚えて、やっと本の仕事をしていく自覚ができました」。この時「BOOKLUCK」も立ち上げた。
編集者という軸ができたことで、一つの世界観を作る喜びがあり、仕事の幅も広がった。一方で、「ライターから作家となった人に嫉妬を覚えていた」と山村さん。
「でも自分は表に立つ人間じゃないと卑下したり。その両極に苦しみました。それを和らげたのが編集という仕事だったのかも。裏方の編集と、表に立つライターがあることでバランスが整い、心を通わせる仕事をしようと思えるようになりました」
「BOOKLUCK」の船出から10年、山村さんはリフレクソロジーというセラピーに惹かれ、もう一つの軸を創り始めた。
「いつの間に⁉」という出来事だった。
「きっかけは友人たちとの温泉旅行。互いに足を揉み合ううちに、人に触れてケアする気持ちよさに気づいて。リフレクソロジーを知り、足を揉ませてもらう大義を得ようと学校にも行きました」。
人の体の状態を知り、気持ちの交換ができる喜びを感じたという。
「フィジカルなことに飢えていたのかもしれません。編集や執筆の仕事では、書くことの孤独や、誰に届いているかわからない忸怩(じくじ)たる思いがあったから」。
今や活動を始めて10年が経とうとしている。
山村さんのイベントに参加した友人はこんなことを言っていた。「体の声も私の声も聞こうとしてくれる施術は初めてだった」と。
そのことを伝えたら「自分がやっている意味がありますね」と山村さんは言った。
「最近、ある編集者に、取材相手の核に迫るまでが早いって褒められたんです。リフレクソロジーで培っているのかもしれないですね」。
そう話す横で、私は山村さんの撮影現場を思い返していた。ディレクターとして現場を和ませながら、リアリティのある画が撮れているかに集中する。ベストを探る言葉を発しつつ、「どんどん好きになっていくね!」と言った。
一方、クライアントが撮影商品へのこだわりを話し出すと執筆者の顔に変わり、自身の理解が深まるまで、言葉のキャッチボールをする。そして「どんどん好きになってます!」と言った。
「好き」ということは心が動く、ということ。「好き」と伝えることは相手に喜びが生まれるということ。
編集と執筆、そしてリフレクソロジストとしても、山村さんは人とのバイブスの交換を大事にしているのだ。そこから生まれる幸せな循環を信じているんじゃないか。そう感想を述べたら「自分がやりたいことの本質かも」と山村さんは言った。
であるならきっと、また誰かが山村さんを見つけ、別軸が動き出すだろう。
私の心は小躍りした。
[ memo ]
編集者:紙媒体、web媒体等の制作でクライアントや読者、社会ニーズに応じて発案、企画の推敲、キャスティング、撮影現場のディレクション、原稿の編集など、完成するまでの指揮をとる。
雑誌「Olive」:マガジンハウスから1982年〜2003年に発行されていた女性誌。「リセエンヌ」「ガーリー」と呼ばれるファッション概念を生み、同時に映画、音楽、インテリア、雑貨、絵本などを取り上げ、新しい少女文化の美意識を提案した。
リフレクソロジー:主に足裏にある反射区(末梢神経が集中している場所で、内臓や器官に対応しているといわれる)を刺激することで、心身を整える療法。セオリーが身につくと、反射区を触れば体の状態が見えてくると山村さん。
編集・文/竹田理紀
1975 年埼玉県・川越生まれ。編集者、コピーライター。いくつかの暮らしまわりの雑誌編集部を経て独立。mineO-sha主宰。
www.mineo-sha.com
撮影/ 山根 晋