村田沙耶香さんインタビュー
「自分は『小説を書くための装置』」
世界に対する「違和感」をたびたび描いてきた村田沙耶香さんの最新小説『世界99』。
困難な世界を生きる人々の痛みを描くとともに私たちに大きな問いを投げかけてくる一作です。
自分は「小説を書くための装置」だと思っています
性的役割や家族のあり方、他者とのコミュニケーションに対する「違和感」を題材にしてきた村田沙耶香さんの、集大成ともいえる新作『世界99』。
主人公の空子はその場の空気や相手に合わせて人格を使い分けることで、困難な世の中を生き抜こうとする人物。
地元の友人とのつながりは「世界①」、トレンドやスピリチュアル的物事への感度が高い「世界②」、社会問題への関心が強い「世界③」…と、異なるコミュニティを行き来する空子の姿に、「自分も似たようなことをしているかも」とはっとさせられる読者もいるのでは。
「同じ場所にいるのに、コミュニティによって違う言葉や情報のやり取りをしている。SNSのタイムラインのように、世界が縦に分裂している感覚が私自身にもあります」
本作は村田さんにとっては初の連載小説でもあり、執筆は3年半にもわたったそう。上下巻
の長編となるとは、村田さんも予定していなかったそう。
「事前に構想を決めず、作品自身に〝うねってもらう〟書き方が好き。書いているうちに想像が膨らんで、見える光景はすべて書かなければ、という感覚でした」
終盤を書き上げたのは、ライターズレジデンス(作家を一定期間招聘し、創作を支援する取り組み)に参加するために訪れたスイス・チューリッヒの街。
「私は古い建物や喫茶店が好きで、スイスでも街を回ったり、図書館で仕事をしていました。ただ観光するだけじゃなく、その場所で少しでも仕事をすると、『そこで生きた』と思えます」子どもの頃から本が好きで、執筆を始めたのは小学生の頃。
「受験のために一時期書くのをやめたら、書こうとしても書けなくなったことがあって。『また書けなくなるかも』という恐怖があるので、ひとつ作品を書き終えても、翌日くらいには新しく書き始めることにしています。
「私は幼少期から『異物にならないように』という意識が強く、自分の意志というものがよくわからないんです。でも小説に関してだけは傲慢というか。自分を『小説のために存在している装置』だと思っているので、人を裏切るような小説であっても、できてしまったら書かざるを得ない。『小説に従ってるんだから仕方ない』という開き直りがあって、書いているときは、すごくのびのびしているんです」
『世界99 上』『世界99 下』
村田沙耶香
各¥2,420(集英社)
コミュニティごとに人格を使い分ける主人公の如月空子(きさらぎそらこ)。
空子の世界における愛玩動物「ピョコルン」が進化し、ある能力を備えたことで世の中は様相を変え始める——。
「ピョコルンはふわふわだけど、どこかイルカのような艶めかしさを持った生き物のイメージ」