【木村多江さん】若いほうがいいという価値観を超えて
年齢を重ねることで生まれる知性と深みを目指して
陰と陽、光と影。
強い日差しの対極には、静寂の空気が漂います。
凛とした美しさを見せてくれたのは、俳優・木村多江さん。
ハンサムな着こなしの中にひんやりとした夏の静けさをまといます。
ワードローブはミニマムに整えながらも、気分に合わせて自由に装いを楽しみたい。
そんな思いから木村多江さんが実践しているのが、いつもの着こなしに新しい風を呼び込む、組み合わせの妙。
「たとえば全身をブルーやグレーのワントーンで揃えるのも楽しい。いつもはグレーとピンクで合わせていたのを、グレーと赤に変えてみたり。ちょっとした工夫で、新しい自分が見えてくるんです」
服を増やさずに印象を一新するには、アクセサリーも欠かせない存在です。
「若い頃は繊細なアクセサリーが似合うと思っていたけど、今は大ぶりなものや重ねづけも意外となじむように。個性的なアイテムにも負けないのは、年を重ねたことの強みかもしれません」
今は撮影の合間の、ひと息つけるタイミング。ファッションだけでなく、忙しくて着手できなかった〝やりたいこと〟を少しずつ叶えているそう。
「一昨日は演奏会、昨日は友人に誘われてバスケットボールの試合を観に行きましたし、来週は美術館へも行くつもり。やっぱり、アウトプットばかりでなく、インプットも大切にしたいので」
インプットを重視しているのは、年齢を重ねることの価値を、内面からも高めていきたいという思いから。
「日本では女性は若い方がいいという価値観が根強いですよね。でもヨーロッパでは、女性は年を重ねるごとに知性や深みが増して、素敵になるという考え方が主流。私もそれを目指したいけど、そのためには私自身の中身も磨いていかないと。いい音楽を聴いたり、美しい絵を見たり、スポーツで頑張っている人に勇気をもらったり。それらはすべて、自分の心を豊かにしてくれる財産になります」
上半期にはいくつもの作品に参加し、多忙な日々を送っていた木村さん。
公開を控える作品のひとつが、柚月裕子さんの小説が原作の『盤上の向日葵』。坂口健太郎さん演じる天才棋士・上条桂介の幼少期を支える唐沢美子を演じています。
「家庭環境のせいで苦しむ幼い桂介の姿を見て、この子の人生はどうなってしまうんだろう…と胸が痛みました。物語の舞台は昭和ですが、きっと今の時代にも、違う形で同じような状況は存在する気がして。誰かに手を差し伸べられる人になりたいと思わせる、切ないお語でした」
この冬には、福山雅治さんと大泉洋さんの〝バディ〟が注目を集めたドラマ『ラストマン』の映画版も公開。木村さんはドラマに続いて、福山さん演じる全盲のFBI捜査官の元妻・デボラを演じます。
「ドラマでは、デボラは終盤からのサプライズ出演だったんです。私自身も前半は一視聴者として楽しんでいたので、出演が決まったときは驚きました。映画では、より物語もスケールアップしているので、期待していただけたら」
つかの間の休息を終えた後は、また次の作品へ。厳しい暑さが続く夏の現場では、自分なりの体調管理が欠かせません。
「場所によっては窓も冷房もないので、脇の下や背中に保冷剤を入れて、直に体を冷やすようにしています。免疫力を上げて熱中症を防ぐには、筋肉量を増やすことも重要。夏はさっぱりしたサラダや麺を食べたくなりますが、たんぱく質が不足しないよう鶏のささみを加えたり、プロテインを飲んだりしています」
さらに、夏は眠りが浅くなるのも悩みどころ。木村さんは眠る前のストレッチと呼吸で、自律神経を整えているそう。
「ポイントは〝吸ってから吐く〟のではなく、〝吐いてから吸う〟こと。空気を吐ききってから吸うと、深呼吸できて気持ちが落ちつき、眠りに入りやすいんです」
眠る前にネガティブな気持ちに引きずられないよう、自分なりのリセット術も。
「嫌な出来事を思い出したら、抗うためにあえて『ありがとう』と感謝します。といっても、心から感謝できないこともあるので、歯を食いしばって(笑)。ちゃんとありがとうと言えた後には、自分を褒めてあげる。
〝明日は明日の風が吹く〟と考えて、翌日に持ち越さないようにするんです。生きていればいろいろあるけど、自分なりの対処法を知って、なるべく穏やかに過ごしたいですね」
TAE KIMURA
1971年、東京都生まれ。舞台、映画、ドラマと幅広く活躍。2008年の初主演映画『ぐるりのこと。』で多くの映画賞を受賞。近年の出演作にドラマ『青島くんはいじわる』『まどか26 歳、研修医やってます!』、配信ドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』、映画『九十歳。何がめでたい』、舞台『台風23号』など。『美の壺』(NHK BSプレミアム)のナレーションも好評。映画『盤上の向日葵』が10月31日、『映画ラストマン』が今冬に公開予定。
撮影/枦木功[nomadica] スタイリング/成子美穂 ヘアメイク/福沢京子 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2025年9月号より抜粋
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