『遠い山なみの光』いよいよ公開!
【吉田羊さん】「不穏でありながら、とても美しく詩的な作品」インタビュー全文
カジュアルなのにドレッシー。
リラックスしていても、大人の品は忘れない。
「デニムは日常着」という吉田羊さんに
クールで遊び心あふれるミックス・スタイルを着こなしていただきました。
加えて、最新作『遠い山なみの光』についてもうかがいます。
今までやってきたことが、自分を形作っている。
そう実感できた、ありがたく、美しい瞬間でした
「デニムはもともと作業着だから、少し汚れたくらいが味だという気軽さがいい。コーディネート次第で甘さが出せるし、ジャケットとも合わせられるのも魅力です。そういえば私、デニムの着物を持っているんですよ。カジュアルに着物を楽しみたいとき、重宝しています」
今年5月、吉田羊さんの着物姿は、南仏のレッドカーペットでも多くの人を魅了していました。
カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『遠い山なみの光』は、ノーベル賞作家カズオ・イシグロ氏の小説が原作。戦後の長崎と英国を生きる女性・悦子の人生の謎に迫るヒューマンドラマです。
日本でも公開されたばかりのこの作品で、吉田さんは英国に暮らす大人時代の悦子を演じています。
「長崎であったことについて、娘のニキに請われて話しだしますが、悦子は決して多くを語りません。そこに余白が生まれ、観る側は想像力をかきたてられる……不穏でありながら、とても美しく詩的な作品だと感じました」
物語の核心を握る人物であると同時に、英国人の佇まいを体現する役どころ。
台詞は全編、ブリティッシュ・アクセントの英語です。この難役をオーディションで勝ち取った吉田さんは、撮影前に単身英国に渡り、1か月間のホームステイを体験。
言葉と、現地での生活歴を身に染み込ませる日々を送りました。並々ならぬ意欲は、家族のある体験に起因したものであったと、吉田さんは話します。
「私の父は長崎生まれで、5歳の時、爆心地から山を2つ隔てた先の病院に入院していて、そこで被曝しました。当時、治る見込みがないとされていた父の病気が、原爆の日を境に回復し始め、祖父は父に、お前はきっと亡くなった方々から命をいただいたのだから命を大切にしなければならないと言ったのだそうです。父から幾度となくその話を聞いた私に今作のオファーがあったのも、きっと何か意味があるはずだと感じていました」
もうひとつ、吉田さんの背中を押した出来事が。それは撮影に入る前、読み合わせを行なった時のことでした。
「英国チームの皆さんが、私の台詞を聞いて『よく頑張った!』と拍手してくださったんです。悦子は正直、掴みどころのない人物だったし、英語にしてもトレーニングはしていたものの、もっと早く始めておけばよかったという後悔もあり、不安を抱えたまま臨んだのですが……ああ、今までやってきたことがちゃんと血や肉になっているんだと実感できた瞬間でしたね。その後に受けた石川 慶監督の繊細な演出で、見えそうで見えない悦子の本心を、静かに、さらに丁寧に呼び起こしていただけたと思っています」
完成後の作品を試写で見て、その後、カンヌでの上映を見た吉田さん。「その間、わずか1週間なのに、見え方がガラッと変わっていて」驚いたといいます。
その時々の心の持ちようや環境によって見え方が変わるのは、それだけ吉田さん自身の進化のスピードが速いということ。そして、それは今も止まりません。
「英語の勉強は続けています。朝から晩まで英語漬けだった現地で身についたのは、開き直りと度胸かな?(笑)でも、続けることではじめてわかることって、必ずあると思うんです。モチベーションを保ち続けるのは大変だと思われるかもしれませんが、実はモチベーションは、都度上げなくても続けることで自然とついてくるものなんだというのが、最近の発見なんです。
英語の勉強を日常に組み込んでしまえば、逆にやらなければ居心地が悪くなってくる。言ってみれば、マラソンやランニングと同じですね。気持ちが上がらないなと思う時こそ、とりあえずやってみる。それが大事ですよ」
気づくと、オンもオフも「つい詰め込みすぎてしまう」と笑う吉田さん。
季節が移り変わる中、次の作品に取り組むために意識的に休むことも課題のようです。
「和食中心の胃腸にやさしい食事を心がけ、仕事の時以外はあまりメイクをせず、肌の再生能力を高めるようにしています。休みが取れたら、またひとり旅をしたいですね。まだ行っていないイタリアやスペイン、ずっと憧れ続けています」
映画『 遠い山なみの光』
何もかも失った。でも希望だけは、いつでも確かにそこにあった――。娘であり、妻であり、母であるひとりの女性を通して、移り変わる時代をはるかに眺めわたす物語は、「人生の折々に見返すたび、発見がある作品になったと思います。もちろん、私にとっても」と吉田さん。
監督・脚本・編集:石川 慶
原作:カズオ・イシグロ/小野寺 健訳『遠い山なみの光』(ハヤカワepi文庫)
出演:広瀬すず 二階堂ふみ 吉田 羊 カミラ・アイコ 柴田理恵 渡辺大知 鈴木碧桜 松下洸平 三浦友和 ほか
YOH YOSHIDA
最近の映像出演作に大河ドラマ『光る君 へ』、映画『ハピネス』など。カンヌでも注目された独創的なキモノ・スタイルを紹介するフォトブック『ヒツジヒツジ』(宝島社)が好評発売中。今年2〜5月は東京サンシャインボーイズ復活公演『蒙古が襲来』で全国10都市を精力的に巡演。12月には『映画ラストマン-FIRST LOVE』が公開予定。
撮影/枦木 功[nomadica] スタイリング/石井あすか ヘアメイク/福沢京子 文/大谷道子
大人のおしゃれ手帖2025年10月号より抜粋
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