迫真の演技に魅了される! ヴェネチア国際映画祭「女優賞」受賞作3選
『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
イタリア現地時間9月6日に閉幕したばかりのヴェネチア国際映画祭は、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界三大国際映画祭のひとつで、最古の歴史を誇ります。今年の受賞結果も気になるところですが、本コラムでは、現時点でDVDや配信などで観ることのできる歴代受賞作を紹介。先週は「金獅子賞」(最優秀作品賞)にスポットを当てたので、今週は最優秀女優賞にあたる「ヴォルピ杯」の過去3年間の受賞者とその作品を取り上げます。
目次
満たされない欲望に苦しむ女性をニコール・キッドマンが衝撃の熱演
『ベイビーガール』
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2024年の第81回ヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞に輝いたのは、『ベイビーガール』のニコール・キッドマンです。映画が始まるといきなり映し出されるのは、ベッドであえぐ裸の中年女性。夫婦の営みが終わるとすぐさま一人でパソコンの前に移動してあるものを観ながら……、という衝撃的な冒頭シーンに、キッドマンの凄さを見ました。すでに名声も地位もあるスター女優でありながら、本能剥き出しの演技を厭わず、新たに挑戦する姿勢。だからこそ、キッドマンは常に第一線で活躍を続けているのでしょう。
キッドマンが演じるのは、巨大物流企業でCEOを務めるロミー。仕事でトップに昇りつめ、優しい夫(アントニオ・バンデラス)と娘たちもいて、公私ともに成功している女性です。ある日、ロミーは、路上で暴れる犬を手懐けた青年を目撃。その青年は、彼女の会社にインターンとして入ってきたサミュエル(ハリス・ディキンソン)で、ロミーの秘めた欲望を見抜くと、きわどい挑発を仕掛けてきます。格下の青年に主導権を握られたロミーは、心がかき乱されて、深みにはまっていきます。
『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
犬を手懐けるサミュエルの姿が頭から離れないロミーは、自らの本能、性癖ともいえますが、それを恥じて苦しんでいるのです。このようなテーマは、例えばルイス・ブニュエル監督の“昼は娼婦、夜は貞淑な妻”をカトリーヌ・ドヌーヴが演じた『昼顔』などでも描かれているように目新しいものではありませんが、女性の立場が現代的にアップデートされたことで、別の問題も示しています。ロミーの部下である女性は、ロミーに女性たちの手本であってほしい、と言います。何もおかしな意見ではなありませんが、妻はこうあるべき、といった男性からの要求と同じで、成功した女性は常に輝いているべき、という女性からの期待もまた、ロミーをがんじがらめにしているのでしょう。
『ベイビーガール』© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
女性監督のハリナ・ラインとタッグを組み、“満たされない欲望”の苦しみから脱却しようとするひとりの女性の変化を、繊細かつ大胆に演じたキッドマンには脱帽です。
『ベイビーガール』
2024年製作
DVD ¥4,400円
発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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構成・文
ライター中山恵子
ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。