名曲ぞろい! 映画音楽家のドキュメンタリーが公開
~愛すべき映画にはいつも彼の音楽が流れていた~
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』
©-MACT PRODUCTIONS-LE SOUS-MARIN PRODUCTIONS-INA-PANTHEON FILM-
フランスのミュージカル映画の名作『シェルブールの雨傘』の音楽で一躍有名になったミシェル・ルグラン。フランスが生んだジャズミュージシャンにして作曲家のルグランは、2019年1月26日に86歳で逝去するまでの長い音楽人生の中で、200作品以上の映画音楽を手掛けてきました。映画好きの人なら、きっと何かの作品で、彼の音楽を耳にしているのではないでしょうか。
そんなルグランの軌跡と人生最後の公演の舞台裏を追ったドキュメンタリー『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』が9月19日(金)より公開されます。また、それを記念して、『シェルブールの雨傘』を含むジャック・ドゥミ監督と組んだ旧作3作も『ミシェル・ルグラン&ジャック・ドゥミ レトロスペクティブ』と称して同日より公開。3作とも主演はカトリーヌ・ドヌーヴで、美しさの絶頂期にあった彼女の輝きも必見です。
目次
気難しくて愛すべき音楽家の晩年に密着、魂のパフォーマンスに感動
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』
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ミシェル・ルグランが音楽を手掛けた映画は数多く観てきたものの、どのような人なのかほとんど知らなかった筆者は、このドキュメンタリーを興味深く鑑賞し、情熱的な生涯に感銘を受けました。
自分にも他人にも厳しく、気性も激しく、気難しい音楽家のルグランは、一方で子どものような無邪気さを持ち続けていて、少し高めの声がチャーミングです。一緒に仕事をするのは骨が折れるけれど愛すべき天才であることは、『愛と哀しみのボレロ』で組んだクロード・ルルーシュ監督(『男と女』)をはじめ、多くの仕事関係者や家族のインタビューからも伝わってきます。
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11歳にしてパリ国立高等音楽院に入学し、厳しい師のもとで才能を開花させたルグランは、1960年前後にヌーヴェルヴァーグの波にのり、映画界入り。
ジャック・ドゥミ監督の『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』、ジャン=リュック・ゴダール監督の『女と男のいる舗道』といったフランス映画の音楽を担当して名を馳せます。さらには、『華麗なる賭け』や『愛のイエントル』などアメリカ映画でも活躍。
フランスを愛していると同時に英語圏の文化にも興味を持っていたルグランは、古典的な表現から脱却しようとしていたフランス映画にアメリカの新しさをもたらし、アメリカ映画にはフランスの洗練された華やかさをもたらしたように思います。
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彼にとって人生最後の公演となった2018年12月のフィルハーモニー・ド・パリでのコンサートの舞台裏に密着した映像は圧巻で、全身全霊のパフォーマンスに心打たれます。このほか、同年7月に日本のブルーノート東京で演奏した姿や、ポーランドのコンサートで即興でショパンを演奏して喜ぶ姿なども収められています。
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ルグランを敬愛するデヴィッド・ヘルツォーク・デシテス監督による本作は、エモーショナルなルグランの音楽と人柄を伝えると同時に、80代のルグランに寄り添う温かな姿勢が貫かれています。
演奏シーン以外に筆者が特に心に残っているのは、ルグランとジャック・ロジエ監督(『オルエットの方へ』)が挨拶を交わす短い場面です。同時代に切磋琢磨したであろう二人が高齢になり、才能を認め合い、いたわり合う姿に涙があふれました。ロジエ監督も2023年に逝去しましたが、本作にはルグランの音楽人生だけでなくフランス映画の魅力がたっぷり詰まっています。
『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』
2024年製作
監督・脚本:デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス
脚本:ウィリー・デュハフオーグ
出演:ミシェル・ルグラン、アニエス・ヴァルダ、
ジャック・ドゥミ、カトリーヌ・ドヌーヴ、
バンジャマン・ルグラン、クロード・ルルーシュ、
バーブラ・ストライサンド、
クインシー・ジョーンズ、ナナ・ムスクーリ
配給:アンプラグド
2025年9月19日(金)より、
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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構成・文
ライター中山恵子
ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。