Warning: Undefined array key "nMin" in /home/xb086912/osharetecho.com/public_html/official/wp-content/plugins/social-networks-auto-poster-facebook-twitter-g/inc/nxs_functions_engine.php on line 56

Warning: Undefined array key "nHrs" in /home/xb086912/osharetecho.com/public_html/official/wp-content/plugins/social-networks-auto-poster-facebook-twitter-g/inc/nxs_functions_engine.php on line 56

カテゴリー

人気タグ

大人のおしゃれ手帖 4月号

大人のおしゃれ手帖

最新号&付録

大人のおしゃれ手帖
2026年4月号

2026年3月6日(金)発売
特別価格:1640円(税込)
表紙の人:麻生久美子さん

2026年4月号

閉じる

記事公開日

この記事の
関連キーワード

大人のおしゃれ手帖
の記事をシェア!

ファッションクリエイター伊藤佐智子さん
『松』を使った新たなチャレンジを始動

年齢を重ねると、いろんな役割が生まれたり、あたらしい自分自身に出会ったりするもの。
「こうでなければならない」に縛られず、多面性を持って生きるみなさんを、
編集者の竹田理紀さんが取材する連載『私とワタシ』。
生き方はひとつじゃない、興味の赴くままに生きることへのエールをお届けします。
今回は、衣装デザイナーと松プロダクトデザイナーの顔を持つヤマモトヒロコさんをご紹介します。

ファッションクリエイター・松プロダクトデザイナー
伊藤佐智子さん
ファッションクリエイター。舞台や映画、CMの衣装デザインのほか、商品開発からセットデザインまで活動は多岐にわたる。世界初の松と水晶からつくる糸と生地を開発し、ブランド「Fyl as(フィラス)」を立ち上げ、6月販売予定。2024年、松に特化した魅力ある商品を届ける合同会社ワンブレイクを設立。2026年初夏の発売に向け、商品開発に取り組んでいる。近作に、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、ドラマ『しあわせは食べて寝て待て』、舞台『ピーターとアリス』(熊林弘高演出/2026年2月上演)、2026年公開の映画『ルックバック』(是枝裕和監督)など。東京2020パラリンピック開会式衣装ディレクター。

合同会社ワンブレイク https://onebreak.co.jp/
ブリュッケ https://brucke.co.jp/

「今日はずっと江戸時代にいたのよ。何しろ平賀源内って人はすごいわね。それで外に出たら渋谷でしょ。驚いちゃったわ」。

2024年初春のことだ。その頃、伊藤佐智子さんは江戸時代中期を生きていた。翌年のNHK大河ドラマ『べらぼう』の衣装デザインを担当することが決まり、連日の打ち合わせが続いていたのだった。
会うと当時の文化や衣装の話を、その時代の只中にいるかのように、目を輝かせて語ってくれた。

私は2015年から2024年春まで、本誌で続いた伊藤さんの連載の編集担当だった。二カ月に一度、事務所を訪ねるたびに、中世から現代まで、映画、舞台、ドラマ、広告と、時代もジャンルも異なる仕事の話が次々に飛び出した。その話を聞く時間は、私にとって楽しみだった。
あちこちの時代の友達を紹介されるようだった。

伊藤さんが衣装デザイナーとして歩み始めたきっかけも、拍子抜けするほど自然なものだった。
美学校に通っていた学生時代、木村恒久さんを師としてグラフィックデザイナーを目指しながらも、洋服が好きで手作りしていた。既製品のなかに着たい服がなかったからだ。

ある日、美学校の学生たちが集まるパーティで、その服に目を留めた人がいた。当時のファッション誌『服装』の編集者だった。「あら、あなたの服ステキ、どこの服?」。
そう声をかけられ、自分で作ったと答えると、「ちょっと見せて」と言われ、とんとん拍子に付録表紙の衣装デザインを任されることになったという。

「当時の編集者って、若くて面白い子をピックアップして育てることを楽しんでいたのよね。好きに作っていいって言われたのよ」。
その後、その雑誌で服のデザインを手がけ、やがて他の仕事もつながっていった。

衣装デザイナーになろうと、強く思い描いていたわけではない。
ただ、好きで作っていた服に、誰かが反応し、声をかけた。その流れに、身体ごと「はい」と乗った。
伊藤さんの仕事の原点には、いつもそんな始まり方がある。

そして、今の伊藤さんを形づくる出会いが訪れる。友人の紹介を通じて、アートディレクターの石岡瑛子さんと出会ったのだ。「洋服を作っている」と伝えると、「じゃあ、作ってみて」と、あっさり仕事の話になったという。

伊藤さんはまだ二十一歳。今では考えられないような話だが、当時はそれがごく自然に起きていた。

「きみって素敵だ。いくつなの。」というコピーで知られるパルコの広告。その広告で着用された衣装を、伊藤さんはデザイン・染色した。

「ただ目の前の仕事に必死だったのよね。どれほどすごい人たちと一緒に仕事をしているのかも、ましてや、それが後に広告賞を総なめにするような仕事になることも、思いもしなかったし」。

その後も石岡さんの事務所に頻繁に出入りし、広告の衣装を任されるようになる。
一ミリ単位で詰めていくデザインへの姿勢。妥協しないこと。同時に、相手を深くリスペクトすること。そうした仕事のあり方を、最初に一流の現場で体に刻み込んでいった。

「心臓がバクバクするのは当たり前。ポーンと球が飛んでくるように衣装の依頼がきたら、ただ『はい』と答え、手を動かすだけ」。そうして今もなお広告のクリエイターたちに語り継がれている、80年代のCM、サントリーローヤルの「ランボウ」「ガウディ」シリーズなど(ぜひ見てほしい!)、アーティスティックな映像の世界に衣装で参加することになる。

時空を軽々と飛び越え、リアルと空想のあわいで遊ぶ伊藤さんの表現は、一躍注目を集めた。
そんなふうに手を動かし続け、気づけば半世紀以上が経っていた。

そんな伊藤さんにとって、「今までとは違う」と感じる出来事が訪れた。人生って不思議だ。

四年前、友人から庭の剪定で出たという、青ボックリのついた松葉の枝が届いたことから始まる。

箱を開けた瞬間、清らかな松の香りが広がり、稲妻のような感覚が走ったという。「瞬間的に、青ボックリを水に転写してみたいと思ったの」。
実際に水に入れてみると、水の味が変わった。澄んで、まろやかになった。
私も撮影現場でもらったが、一口含むと、ほのかに松の香りが鼻を抜け、心身が満ちる感覚があった。

気づけば、伊藤さんは、その水を日常的に飲むようになっていた。そして撮影のたびに、まるで友達の話をするように、松の話をしてくれたのだった。
 
霊木と言われる松。松飾り、盆栽、庭木。木材にも薪にもなり、薬効もあり、人の営みのそばに在り続けてきた。伊藤さんは松を調べ、触れ、試す時間を重ねるうちに、志を同じくする仲間とも出会っていった。松葉と水をミキサーにかけてジュースにしたり、蒸留水をスプレーにしたり。「まるで向こうから呼ばれている感じ。導かれている感じなのよね」。

そう話す伊藤さんは、衣装デザイナーになった頃のことを語るときと、同じ目をしていた。ポーンと投げられた依頼に「はい」と返す―それとよく似た感覚なのかもしれない。

今回は松からの依頼。気づけば手が動いている。そんな感覚なのだろう。

衣装の仕事は変わらず続いている。けれど、重ねてきた試作を形にすべく、今年の春、松のプロジェクトを始めるという。
手始めに、事務所の一室を試作のための小さなラボとして整え、建物のエントランスにはフレッシュジュースを提供する小さな店を計画している。

松葉配合のジュースを使ったクレンズや、松の繊維に水晶を織り込んだ樹木布も、少しずつ形になってきた。気づけばそこには、若いクリエイターたちの手も重なっている。

伊藤さん自身が、かつてそうして育てられてきたように。事務所を訪ねた日、衣装デザイナーとして強い意志を秘めたジャンヌのような伊藤さんと、松葉の実験を重ねる少女のような伊藤さんが、自然に同居していた。

「未来がわからないから人生は面白いのよ。うちの会社の社員でね、面接の時に『10年後がどうなっているかわからない会社だから入りたい』と言った子がいて。その発想がうれしかったわね。面白いってそういうことよね」

まだこの先にもやりたいことがあるのかと尋ねると、伊藤さんは「実はね」と、少しだけ言葉を濁して笑った。

それはきっと、いつか形になるから、ここには書かないでおく。伊藤さんのことだから、また次の道がひらけていく。川の流れは変わり続ける。
けれど、身体が「はい」と反応する場所だけは、きっと、間違えない。

この日は、2026年2月9日から東京・東京芸術劇場、2月28日から大阪・梅田芸術劇場で開幕する舞台『ピーター
とアリス』の衣装デザインの真っ最中。
世界中で愛され続ける「ピーターパン」と「不思議の国のアリス」に、モデルとなる少年と少女がいたという実話から、イギリスで作られた戯曲だ。
以前からタッグを組んできた、演出家、熊林弘高さんとの仕事。「熊林さんは尊敬する演出家の一人。彼は、脚本、キャスト、照明、美術から立ち上がってくる衣装について、対話を大切にしてくれる。ピーターパンとアリスの原作イメージは大事にしつつも、少しポップにするつもり」と伊藤さん。

摘んだ松葉をよく洗い、水とミキサーにかけ、濾して作る松葉ジュース。なんとも美しい緑色。
そのほか、青ボックリをてんさい糖に浸けたり、リカーに浸けたりと、小さなラボで実験を行っている。

事務所のエントランスに建設予定の松葉ジュースが飲めるコンテナストアの模型。
設計は建築家の中山英之さんに依頼した。

松の繊維に水晶を織り込んだ樹木布のブランド「Fylas(フィラス)」。
アートディレクターの矢後直規さんとともにこの日は打ち合わせ。松葉と水晶をモチーフにしたロゴが立ち上がってきた。

[ memo ]
美学校: 出版社の現代思潮社によって1969年に創立された、美術、音楽、メディア表現を学ぶ私塾。

木村恒久: 日本を代表するグラフィックデザイナー。フォト・モンタージュ(複数の写真や画像をコラージュし、新しいイメージを作り出す技法)の草分け的存在であり、作品集「ザ・キムカメラ」を刊行。1980年には毎日デザイン賞を受賞した。

石岡瑛子: 日本を代表するアートディレクター、デザイナー。資生堂でキャリアをスタート。1970年代に独立後、PARCOの広告キャンペーンでその名を知られるようになる。

フィラス(Fylas) : 伊藤さんが立ち上げる樹木布のブランドの名前。込めた意味は「お守り」。ギリシャ語の〝φυλαχτó〟(フィラフト)が語源。

松葉の薬効: 松葉は24種類以上のアミノ酸が含まれ、タンパク質の合成を助ける効果が期待されている。また、その葉緑素は赤血球のヘモグロビン似た構造を持ち、血液生成のサポートや浄化作用もあると言われる。


編集・文/竹田理紀
1975 年埼玉県・川越生まれ。編集者、コピーライター。いくつかの暮らしまわりの雑誌編集部を経て独立。mineO-sha主宰。
www.mineo-sha.com

撮影/ 山根 晋

この記事を書いた人

ファッション、美容、更年期対策など、50代女性の暮らしを豊かにする記事を毎日更新中!
※記事の画像・文章の無断転載はご遠慮ください

Instagram:@osharetecho
Website:https://osharetecho.com/
お問い合わせ:osharetechoofficial@takarajimasha.co.jp

この記事のキーワード

記事一覧へ戻る

大人のおしゃれ手帖の記事をシェア!

関連記事