暮らしの万能布
「和晒(わざらし)」のすすめ
手ぬぐいの布地として使われているのが「晒(さらし)」。
手ぬぐいとして手に触れる機会は多いものの、染める前のピュアな「晒」を使う機会は、減っているのではないでしょうか。
かつてはどの家庭でもさまざまな用途で使われていた、今一度その良さを見直したい日用品「晒」。
その中でも今回は「和晒(わざらし)」に注目、今では数が少なくなっている日本の生産者さんを訪ね、その魅力をご紹介します。
今こそ見直したい「和晒」の持つ可能性
「ご年配の方からは『探してたんです!』ってご連絡いただくことはあるんですけど、どうしても若い方は、安産祈願の『腹帯』のイメージしかないみたいで。
お客様とお話しする機会があるときも『和晒って何に使うの? ふきんと何が違うの?』ってご質問をよくされます。
晒とふきん、それぞれの良さがあると思うんですけど、晒は『拭く』だけじゃなく、使い方は多様。
便利さをもっと知ってもらえるといいなといつも思ってるんです」と語るのは、大阪・堺市で明治44年から和晒の加工業を営む「武田晒工場」の武田麻衣子さん。
加工に手間暇のかかる「和晒」の業社は年々減少。五代目の武田真一さんによると、
「和晒の加工業社は、我々がいる大阪の堺市に7社、愛知県の知多半島に2社、現状9社です。そのうち1社が辞めると聞いているので、全国で8社になるかもしれません」
生地に含まれる色素や不純物を洗浄漂白加工することを「晒す」と言います。
中でも、日本の伝統的な製法で晒すのが「和晒」です。
「和晒」になる前の木綿生地。「晒す前の生地は、こんなふうに水をはじくんですよ」と真一さん。
晒すことで吸水性の高い生地に仕上がる。
「最初は料理に、汚れたら掃除に。最後は土に還せるものなんです」
「和晒の特徴としては、まず木綿の平織であること。
我々が作っているのは端に『耳』がある『小幅織物』と呼ばれるものです。
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を交互に交差させて織るので、糸の交差が多くなり、丈夫で摩擦に強い生地になります。
その生地を我々が晒に加工します。
未加工の生地には、木綿自体に含まれる脂や色素、糸にするときに使ったのりなどが付着しているので、それらを取り除く『のり抜き』という作業をします。
また同時に繊維をやわらかく吸水性を高める『精錬(せいれん)』という加工もします。
『精錬・のり抜き』した生地を自然由来の薬品で漂白し、よくすすぎます。
そうしてできた生地が『和晒』です。
加工にはとても時間がかかるんです。
『和晒釜』という大きな釜で生地にストレスをかけないように、丸2日間かけてじっくり晒していきます。
体力勝負の仕事です(笑)」と真一さん。
麻衣子さんが続けます。
「例えばロールを1本買って、愛用していただいているお客様によく言われるんですけど、『使っていても全然ヘタレないから、なかなか新しいのが買えないのよね』って。業者的には売れないので困るんですけど、『長持ちして便利だから、手放せないのよね』ってお言葉をいただくと、ていねいに作っていてよかったなって思います」 丈夫で長持ち、何度も洗って使える和晒は、サステナブルでエコ。使い捨てにならないので家庭ゴミも減り、不純物を含まない天然素材なので、土にも還せます。
地球環境にやさしい暮らしが求められる今こそ使いたい日用品です。
木綿に含まれる色素や成分のほか、生地を織り上げる過程で使われたのりなどの不純物を「和晒釜」で生地に負荷をかけず、時間をかけてじっくり炊いて取り除き、純白の美しい「和晒」ができあがる。
「和晒」が万能な理由
不純物のない天然素材の布
「岡生地(おかきじ)」といって、細めの糸を高密度で平織りした上質な生地を使った「和晒」は、不純物が含まれないピュアな布。
丈夫で通気性が高く、熱にも強いため、蒸し料理をはじめ、野菜の水気をしぼる、だしを濾すなどの料理に使われてきた。
天然素材なので、肌にやさしく、赤ちゃんの布おむつや肌着にも安心して使える。
ふんわりした肌触り
「岡生地(おかきじ)」といって、細めの糸を高密度で平織りした上質な生地を使った「和晒」は、不純物が含まれないピュアな布。
丈夫で通気性が高く、熱にも強いため、蒸し料理をはじめ、野菜の水気をしぼる、だしを濾すなどの料理に使われてきた。
天然素材なので、肌にやさしく、赤ちゃんの布おむつや肌着にも安心して使える。
好きなサイズで使える
幅36cm、ロール1本が約7m。
用途に合わせて好きなサイズに手で切って使えるのも便利なポイント。
断ちっぱなしなので速乾
断ちっぱなしで縫い目がないため水がたまらず、速乾性が高い晒。
常に清潔に使いたい料理や、水まわりに使うことが多いので、洗ったらすぐ乾くのはありがたい。
環境負荷が少なくエコ
生地の織り密度が高くとても丈夫なので、洗って何度も、そして長く使える。
最初は料理に、汚れてきたら掃除に。
不純物のない天然素材なので、寿命まで使ったら最後は土にも還せるとてもエコなもの。
使い捨てにならず、家庭ゴミの削減にもつながる。
お手入れも簡単
鍋に重曹を少量と水をかぶるくらい入れて晒を煮沸する。
数分間ぶくぶくと沸騰させれば、消毒は完了。水でよくすすいだら乾かして。
生産者さんおすすめ「和晒」活用術
せっかく生産者さんにお会いできたので、おすすめの使い方を教えていただきました。
今回紹介する活用術を参考に、自分流の活用法をみつけて。
雑味のないおいしい珈琲に
紙フィルター代わりに。
「とくに男性がこの使い方を気に入ってくれているようです」と麻衣子さん。
目の大きさが珈琲をドリップするのにぴったり。洗って何度も使えるのでエコ。
葉がしおれず鮮度が長持ち
ほうれん草や小松菜、レタスや白菜など、葉物野菜の保存に。
洗った野菜を水に濡らしてしぼった晒で包んで野菜室などで保存を。
「うちではきゅうりも包んで保存しています」
ほかほかごはんを手早くおにぎりに
水に濡らして軽く水気をしぼったら、ラップ代わりに晒でおにぎりを。
熱が伝わりにくいので、炊き立てごはんも手早く握れます。
「ほどよい水分なので、べちゃべちゃになりません」
ごはんの冷凍保存時にも。
適度に水を含んだ晒を使うので、レンジで温めなおすとき(包んだままでOK)にも蒸されたようにふっくらおいしい。
敏感肌さんのバスタイムに
肌にやさしい素材なので、フェイス&ボディタオルとしても優秀。
石けんを泡立てて、やさしく肌を滑らせて。
「使うほどにやわらかく、ふわふわになりますよ」。乾きも早く衛生的。
今回使った「和晒」はこちら
36×36cmの正方形にカットされた「和晒」ビギナーさんにも使いやすいサイズ。
家事に使うほか、何かちょっと包んで差し上げたいときにも清潔感のある白い「和晒」なら粋に渡せる。
包装もおしゃれなので、もちろんそのままギフトにしても喜ばれるはず。
さささ 和晒スクエア(5枚組)¥770/武田晒工場 0722-71-0504
拭く、包む、濾す、敷くなど、家事仕事で使いたいときにささっと使える。
ロールタイプなら、用途に合わせて好きな長さで切って使える。
サイズは、幅36cm×長さ7m。
さささ 和晒ロール Free(ミシン目なし)¥2,530〈左〉さささ 和晒ロール Cut(ミシン目あり)¥2,970〈右〉/ともに武田晒工場
撮影/Noriko Yoshimura 編集・文/鈴木香里
大人のおしゃれ手帖2022年11月号より抜粋
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