木村多江さんが明かす役者の心得
「イメージを壊すような新しい役を選んできた」
(大人のおしゃれ手帖2023年3月号)
ささやかな喜びを日常に増やしていく。
それが心の潤いにつながります
まだ寒さの残る早春、いち早く季節の到来を告げる木瓜(ぼけ)の花。
可憐な花の姿に、木村多江さんの表情もほころびます。
「普段はあまり気にとめないような道端の花でも、つぼみがちょっとずつ膨らみはじめると、『どんなにまだ寒くても、この子たちはもう春の準備をしているんだな』と嬉しくなりますよね。
もちろん満開の花も素敵だけど、咲く前の瞬間も、とても愛おしいような気がします」
春の訪れを楽しむために、食卓やインテリアにもひと工夫しているという木村さん。
かつては趣味のテーブルコーディネートの知識を活かして、イベントで空間提案を手がけたこともあるだけに、器選びにもこだわりが。
「たとえば早春から桜が咲くまでの間なら、桜の花びらが描かれたお皿を並べて、春が待ち遠しい気持ちを表現します。それほど凝ったことはしなくても、料理をのせる器は毎日同じものにはせず、日によって変えてみる。ちょっとした工夫で小さな喜びを日常に増やしていくことが、心の潤いにつながりますよね」
日ごとに暖かさが増すにつれて、気持ちもアクティブになってくるこの季節。
新たな学びの意欲も増すときですが、木村さんの場合は……?
「ここ4年ほど勉強している英語に加えて、昨年からは学生時代にやっていた手話をまたはじめています。YouTubeを見ながら独学で覚える程度ですが、細々と続けていきたいですね。
もうちょっと余裕ができたら、コロナ禍で休んでいたアルゼンチンタンゴも再開したい。アルゼンチンタンゴの面白さって、即興にあるんですよね。言葉は通じなくても、踊りから相手の意図を読み取って、あなたがそっちへ行くなら私はこっち……とその場で判断していく。
お芝居にも同じような要素があって。たとえば、相手がどんな演技をするかわからなくても、監督がカットをかけない限り、セリフがなくなっても即興で芝居を続けなきゃいけない。そこにやりがいを感じます」
新しいことに挑戦し続けようとする意欲は、仕事でも同様。
目下取り組んでいる、Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」では、忍者役を演じるために本格的なアクションに挑んでいるそう。
「初めてのアクション練習のとき、いきなり『はい、前転して、後転して!』とアクション監督に言われて、私、やばいかも……って(笑)」
アクション自体は好きなものの、「ハードな格闘シーンの撮影が近づいてくるといつも、どこまで自分の体がもつのかと心臓がばくばくするんです」と木村さん。
「ただ、最初はすぐに筋肉痛になっていたのが、そのうち1日中動いたり走ったりしていても平気になってきて。そうした変化が自信になって、なんとかプレッシャーを乗り越えることができます」
ニット¥24,200、ワンピース¥46,200/ともにハイク(ボウルズ)、イヤリング¥22,550、リング(左)¥16,500、リング(右)¥16,500/すべてTEN.
皆さんに楽しんでもらえるように 自分自身をプレゼンしていきたい
ハードなトレーニングにも耐えうる心身をつくるカギとなるのは、自分に合った食事や運動を取り入れること。
「私の場合、1日3食よりは1食のほうが体に合っているんですよね。朝はアミノ酸を入れた青汁、お昼はプロテイン、夜はバランスよくしっかり食べるようにしています。忙しいときほどメンタルを安定させておくことも大事なのですが、そのために効果的なのが運動。
単純なことですが、ストレッチで体を開くと、心も開きやすくなるんですよね。疲れたり、落ち込んだりして前のめりになった肩をぐっと広げて、『これが通常の状態なんだよ』と体に覚えさせてあげる。口角をきゅっと上げるだけで、脳が『楽しい』と勘違いして気持ちが明るくなると言いますよね。それと同じように、脳からコントロールすることも効果的な気がします」
忍者役に限らず、この数年、お笑い芸人の〝阿佐ヶ谷姉妹〟、結婚詐欺師と、見る人の意表を突く役を演じているのも、現状に満足したくないという思いから。
「役者って私自身が〝だだ漏れ〟になってしまう職業だから、見る人や周りの人に『それでいいの?』と思われたくない。自分の成長が実感できないと不安になっちゃうんです。
『成長するために生まれてきたのに、成長しないでいいのかな?』って。
それに、もともとの性格上、あえて新しいことを選んでいかないと、保守的になりがちなので。
自分に何ができるのか探りつつ、皆さんに楽しんでもらえるように自分自身をプレゼンしていきたい。
そのためにも、同じような役ではなく、イメージを壊すような新しい役を選んできたつもりです。愚かで、こっけいで、でも愛おしい……。
私はそんな人間らしい役が好きなので、見る方にもそれを楽しんでいただけたらうれしいですね」
TAE KIMURA
1971年、東京都生まれ。舞台を中心に活動後、1996年より映画、ドラマにも活躍の場を広げる。近年の出演作にドラマ「24 JAPAN」「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」「やんごとなき一族」「一橋桐子の犯罪日記」、映画『あなたの番です 劇場版』『前科者』など。2014年より「美の壺」(NHK BSプレミアム)のナレーションを務める。2024年にNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」が配信予定。
撮影/浅井佳代子 スタイリング/成子美穂 ヘアメイク/土谷郁子
フラワースタイリング/石澤由美子 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2023年3月号より抜粋
※この記事の内容及び、掲載商品の情報・価格などは2023年2月時点の情報です。販売が終了している可能性があります。ご了承ください。
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