オトナトモダチ —相互交感— 俳優・早乙女太一さん× 俳優・倉科カナさん
映画史に残る名作として知られる黒澤明監督の『蜘蛛巣城』を〝人間の業の物語〟として描いた舞台版。
運命に翻弄され、破滅へと突き進む夫妻を演じる早乙女太一さん、倉科カナさんは、今回が初共演です。
現代にも通じる普遍的な物語に、おふたりがどう挑むのか。
演劇ファンならずとも、期待が膨らみます。
―シェイクスピアの四大悲劇『マクベス』を日本の戦国時代に翻案した、黒澤明監督の名作「蜘蛛巣城」。
舞台版で、おふたりは予言に翻弄されるマクベス夫妻=鷲津武時と妻・浅茅を演じます。
早乙女太一(以下、早乙女) 僕がこの作品に感じるのは、魂のエネルギーというか、生き抜こうとする人間の力や思いの強さ。現代ではあまり表に出ることはないけど、誰もが奥底に持っているものだと思うんです。僕が舞台上で生き抜くことで、そのエネルギーを観る人にも感じてもらえたら。
倉科カナ(以下、倉科) 『マクベス』が軸ではあるけど、舞台版では日本らしい情緒や切なさ、特に夫婦愛に焦点が当てられています。
マクベス夫人は悪妻とされるキャラクターだけど、私は浅茅を悪妻とは捉えていないんですよね。武時と浅茅は政略結婚が多い時代に好きな者同士で結婚して、でも子どもができずに負い目を感じている。だからこそ、城主になれるという予言にすがりたくなる気持ちはよくわかります。
愛ゆえに歯車が狂っていき、どんどんふたりが落ちていく……。
悪というよりは、ふたりの愛を大切にしたい、と現段階では考えています。
早乙女 僕はまだ、具体的にどう演じるかまでは考えていなくて。舞台は稽古場で会話を交わして、少しずつ完成させていくものだと思うので。根本の部分は自分なりに持ちながらも、あまり凝り固まらずにいたいと思います。
ただ、稽古はまだ先なのに今からドキドキしていて……。
作品自体もそうですが、KAAT神奈川芸術劇場に出るのも、倉科さんとの共演も初めて。
僕にとってはチャレンジの多い舞台なんですよね。劇中で描かれる激しい人間模様の中でしっかり生きられるかな? という不安と、生きていきたいな、というワクワク感と。今はその両方の感覚があります。
—赤堀さんの現場は、嘘がつけない。そのぶん、自分とも作品とも向き合える
倉科(演出の)赤堀雅秋さんの舞台って、”赤堀ワールド”というものが既にできあがっているじゃないですか。そこに自分が飛び込んだときにどんな化学反応が起こるのか。怖くもあり、楽しみでもあります。
早乙女 僕は2017年の『世界』という舞台でも赤堀さんの演出を受けましたが、自分の内面まで見られてしまうような、嘘がつけない稽古場で。例えば、自分なりに「今日は良かったな」「スムーズに進んだな」と思ったとしても、翌日またそれをなぞろうとすると、ばれてしまう。でもそうやって細かく見てもらえる現場って貴重なんですよね。それだけ作品と向き合えますから。
倉科 私たちの仕事は表現だから、効果的な表現を見つけるとそのやり方にすがってしまう。心がなくてもその表現が通じることもあるんですよね。でもそれをすると「いや、心が通ってないよね」と指摘されてしまう。心の動きって、自分だけではなくその日の温度感や相手で変わるから難易度が高くて。そこは私も日々葛藤しています。
―この連載は「大人の交友関係」がテーマです。
オンオフ問わず、おふたりがコミュニケーションで大切にしていることは?
早乙女 僕は、好きな人や身近な友達とは、一緒に仕事をしたいんです。それは僕が4歳から劇団にいて、常に劇団員のみんなが周りにいたからかもしれないけど。だから気になる人とは「友達になりたい」というよりも「仕事をしたい!」と思っちゃう。この人はどんな姿勢で仕事に挑んでるんだろう? と興味が湧くんですよね。
倉科 すごいですね。私の場合、相手との距離感がわからなくなってしまいそうで、難しいかも。でもそのほうが友達は増えそうですよね。私は仕事ばかりで、友人関係が狭いのが悩みなので……。ただ、前は友達になりたいな、と思っても声をかけられなかったけど、最近は自分から進んで声をかけられるようになりました。
早乙女 ただ仲よく遊んだり、飲みに行ったりする……というだけでは、そんなに関係が続かないんですよね。一緒にものづくりをして、楽しいだけじゃない時間を共有する。そうすればより相手を知ることができるし、自分のことも知ってもらえて、信頼関係が深まる気がします。
〔 舞台 〕KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『蜘蛛巣城』
時は戦国時代、蜘蛛巣城の城主・都築国春は苦戦を強いられていた。戦いの末、森を彷徨っていた鷲津武時(早乙女太一)と盟友・三木義明は謎の老婆から予言を告げられる。その日から武時とその妻・浅茅(倉科カナ)の運命は大きく動き出し……。
原脚本: 黒澤明 小國英雄 橋本忍 菊島隆三 脚本: 齋藤雅文
上演台本: 齋藤雅文 赤堀雅秋 演出: 赤堀雅秋
出演: 早乙女太一 倉科カナ
長塚圭史 中島 歩 長田奈麻 山本浩司 水澤紳吾
久保酎吉 赤堀雅秋 銀粉蝶 ほか
2月25日(土)~3月12日(日)KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
※3月中旬~下旬 兵庫・大阪・山形にてツアー公演あり
俳優・早乙女太一
1991年生まれ、福岡県出身。大衆演劇 劇団朱雀の二代目として4歳で初舞台を踏む。
近作にドラマ『ミステリと言う勿れ』『六本木クラス』など。
2月3日に映画『仕掛人・藤枝梅安』が公開。
俳優・倉科カナ
1987年生まれ、熊本県出身。2009年、連続テレビ小説『ウェルかめ』のヒロインに抜擢。
近作に、舞台『お勢、断行』、映画『女たち』など。
4月からドラマ『隣の男はよく食べる』(テレビ東京)が放送予定。
撮影/徳永 彩[KIKI.inc] スタイリング/八尾崇文(早乙女さん), 道端亜未(倉科さん)
ヘアメイク/奥山信次[barrel](早乙女さん), 草場妙子(倉科さん) 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2022年2月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
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