オトナトモダチ —相互交感—
俳優・吉岡秀隆さん × 俳優・柴咲コウさん
人と出会い、この時代を共有しながら、ときにひとつの目標に向かう—大人年代の今こそ試されるコミュニケーションのあり方を紐解く対談連載。
今回の撮影が行われたのは、都内の高層階。
「あそこに見えるの、筑波山だね」「朝は富士山も見えましたよ」と会話を交わす吉岡秀隆さんと柴咲コウさんは、まさにあの人気ドラマで醸し出す、穏やかな空気そのまま。
16年ぶりに共演したおふたりの姿に、時代も年齢も超えた、普遍的なつながりを感じさせられました。
− 16年ぶりとなる『Dr.コトー診療所』。
あの”コトー先生と彩佳さん”が、劇場版では夫婦となって帰ってきます。
柴咲コウ(以下、柴咲) 出演作を観ているから会った気になっていたけど、実際に会うのは、本当に16年ぶりでしたね。
吉岡秀隆(以下、吉岡) そうそう。だけど、現場で会った瞬間に何も気負うことなく「ああ、彩佳さんだあ」と。あのまま島にいれば、彩佳さんと家族になるだろうと思っていたので、ふたりが結婚しているという映画の設定も、自然に思えました。
—自分が大人になった今だからこそ、結びつきの大切さを実感できます
柴咲 ドラマのときから彩佳さんはコトー先生のことを意識していたけど、先生はわざとかわしているのか、天然なのか……みたいなところがあって(笑)。映画では、そんなふたりが家族になったところから始まるのがいいですよね。なんとなく、ふたりが恋人になる過程は描いてほしくない(笑)。
吉岡 2006年のドラマで、乳がんを患った彩佳さんに「僕にオペをさせてください、僕がずっとそばにいますから」と言いますよね。僕の中では、それはコトー流のプロポーズなんですよ。
柴咲 そうでしたっけ……? 見直さなきゃ。
吉岡 忘れるなんて、ひどい(笑)。今回、結婚指輪をどうしようかと監督と相談していて。コトー先生は指輪をしない気がするから、いつも持っている往診カバンにぶら下げるのはどうですか? という話になったんです。指輪だけ下げるんじゃなく、彩佳がお守りにしていたコトーの白衣のボタンも一緒に付けよう、と盛り上がって。柴咲さんに見せたら、「なんですか、それ?」って。えっ、僕たちの思い出のボタンなのに……とショックでした(笑)。そんなところも、彩佳さんと重なりますけどね。
柴咲 すみません(笑)。テレビの再放送は観ていたけど、撮影のために見直すことはしなかったんですよね。過去のエピソードとのつながりも描かれるだろうから、役者としては観たほうがいいのかもしれないけど、そこに縛られたくない思いもあって。それに実際の人生で自分の過去の映像を観て回顧することってまずないじゃないですか。
吉岡 それでいいと思いますよ。僕はドラマシリーズを見返して、みんな本当によくがんばったなあ……って。ロケも過酷だったし、スケジュールもタイトで。最終回なんて、放送直前まで撮ってましたからね。
柴咲 そうでしたっけ……。怖ろしい! 大変なエピソードはたくさんありますよね。大時化の船で撮影したときは、本当に転覆するんじゃないかと思いましたもん。みんな生きてるー? 落ちないでー! って声を掛け合って。でも今回は私も20代の頃と比べると気も長くなったので(笑)。前よりは落ちついて待てるようになりました。
吉岡 ハハハ! 柴咲さんのそういうところ、本当に面白いし、大好きですよ。
柴咲 包み隠さず、の性格ですみません(笑)。映画も深夜まで撮影していたけど、集まると本当の親戚のようで、楽しくて。
—20年前の自分はどうだったかな……と懐かしく振り返りながら観てほしい
吉岡 みんな心根の優しい人ばかりだから。そうじゃないと、これだけ大変なドラマはできないですよ。20年前にドラマが始まったのは、ちょうど『北の国から』が終わったタイミングだったんですよね。中江監督が「『北の国から』に負けないドラマを作ってやろう」「(ずっと演じていた)純のイメージを払拭しよう」という強い気持ちを持ってくれて。その熱量が、当時の僕を引っ張ってくれた気がします。
柴咲 私は当時20代で、作品の世界に自分が入れるかどうか、必死だったと思うし、正しくわかっていない部分もあったかもしれない。でもその頃から普遍的な人間ドラマというものに惹かれていたし、人との情愛や結びつきを追い求めていた。大人になって、そうしたものの大切さをしっかり理解できるようになった今の年齢で、また彩佳を演じられることは幸せです。
吉岡 今は不安定な時代だけど、そんなときにも、志木那島のみんなは変わらずにいますよ、と伝えたい。20年前、16年前はどうしていたかな…と、自分を振り返りながら観てもらえたらうれしいですね。
〔 映画 〕
『Dr.コトー診療所』
2003〜2006年に放送された名作ドラマの劇場版。日本の西端にある志木那島に、東京から19年前にやってきた医師・五島健助=コトー(吉岡秀隆)は、長年、コトーを支えてきた看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と結婚し、彩佳は妊娠7か月となっていた。
©2022 映画「Dr.コトー診療所」製作委員会
監督:中江 功 脚本:吉田紀子 原作:山田貴敏『Dr.コトー診療所』
出演:吉岡秀隆 柴咲コウ
時任三郎 大塚寧々 高橋海人(King & Prince) 生田絵梨花
大森南朋 泉谷しげる 筧 利夫 小林 薫
配給:東宝
12月16日(金)より全国公開中
俳優・吉岡秀隆
1970年、埼玉県出身。1977年、子役として『八つ墓村』で映画デビュー。以降、『男はつらいよ』シリーズ、「北の国から」シリーズなどで活躍。映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズでは日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を2度受賞。近作にNetflix『新聞記者』、映画『川っぺりムコリッタ』など。
俳優・柴咲コウ
1981年、東京都出身。俳優として多くの映画やドラマに出演するほか、歌手としても精力的に活動。アパレルブランドなどのプロデュースにも携わる。近年の出演作にドラマ『35歳の少女』『インビジブル』、映画『燃えよ剣』『ホリック xxxHOLiC』『沈黙のパレード』『天間荘の三姉妹』『月の満ち欠け』など。
撮影/白井裕介 スタイリング/椎名倉平(吉岡さん), 柴田 圭[tsujimanagement](柴咲さん)
ヘアメイク/内野晶子(吉岡さん), 川添カユミ[ilumini.](柴咲さん) 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2022年1月号より抜粋
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