【50代の大人旅】「志村ふくみ・色と言葉のつむぎおり」展とアトリエシムラ体験から学ぶ、美しい生き方のヒントーエディター・あさこの関西巡りー
命をいただいて染め、織る 経験に裏打ちされた志村ふくみの言葉
豊かな色彩と、創意に富んだデザイン。手前から《水瑠璃》《
材料となる絹糸は、蚕の命をいただいたもの。植物の命をいただいた色で糸を染め、織り上げる。もちろんそのすべては手作業で行われます。途方もない手間と時間をかけて作られた作品のひとつひとつから、ふくみ先生の強い信念とフィロソフィーがうかがえます。
精神力を要する染織の制作活動と並行して、ふくみ先生は言葉による表現にも取り組まれてきました。「色と言葉のつむぎおり」展では、染め織りの仕事に裏打ちされた芯の通った言葉の数々が、染織作品とともに展示されています。
左上から時計回りに《五節(No.1)》《朝》《茜》《梔子熨斗目》
写真では伝わりづらいですが、実際に展示を訪れると、つむぎおりの立体感のある風合いを目の当たりにすることができます。紬の歴史は古く、平安時代後期の文書にも見られるそうですが、もともとは全国の農家で自家用衣料として手機で織られたもので、一般庶民にも広く着用されていたといいます。
ふくみ先生も著書『ちよう、はたり』(筑摩書房)のなかでつむぎおりについて「思えば四十年以上前、まだ機織りをはじめたばかり、近江に住んでいた頃のこと、私はそれを何気なくつなぎ糸と呼んでいたが、もともと農家の女性達が夫や子供に機を織って着せていた着物ののこり糸を夜な夜なつなぎぎためていたものである。赤や藍や茶の短い糸をつないで玉にし、それがたまると半纏(はんてん)や帯を織り、それは屑織(くずおり)、襤褸織(ぼろおり)などと呼ばれていた」と述べています。
「この頃糸について考えさせられている。四十年近く私は糸と深い付き合いをしてきた。切っても切れない仲、それが糸である。糸をいとしいと言う、小さな糸屑までいとしい。捨てられない。」(「糸、いとしきもの」『小さい葩』61号 日本のきものを守る会)
「先日思い立って、部屋中に蘇芳、茜、紫、藍、緑、くちなし等のそれぞれのグラデーションの色糸をあふれるほど並べてみた。もう一ど自分の色をふりかえってみたいと思ったのである。まだまだ染め足りない。門口に立ったばかりだと私は呆然とした。しかし一方で、これは私の仕事の中心、心臓部だと思った。ここが動いて生きていなければ、私の仕事は無いに等しい、と。」(『ちよう、はたり』筑摩書房)
──どうしたら仕事に対してこれほどの情熱やモチベーションを保てるのでしょう! 仕事や人生に迷うとき、ふくみ先生の言葉は灯台の明かりのように光り輝いて見える気がします。
着物が中心ですが、小裂(布のはしきれ)や屏風なども展示されています。さらに、この展覧会に寄せてふくみ先生が寄せた直筆メッセージも! 100歳という年齢を感じさせない力強いタッチが印象的です。実際、数年前まで創作活動を続けてこられたという志村ふくみ先生。そのバイタリティの源には、少女のような好奇心があるのではないかと感じました。
「一つの仕事をずっとやり続けていると、別の分野のことまで見えてきて、気がつくと自分の領域が少しだけ広くなったり、深まっているものだということを、私は紬を織り続けてようやく考えるようになった。」(「機、旅、読むこと」『学燈』丸善)
今回の展示の中で、一番好きな言葉! しっかり心にメモしました。なお、こちらの展示の巡回ではありませんが、東京・虎ノ門の大倉集古館にて「特別展 志村ふくみ 100 歳記念 ―《秋霞》から《野の果て》まで―」(2024年11月21日・木~2025年1月19日・日)が開催されるそうなので、私もタイミングが合えば伺いたいと思っています。
四季折々の自然とアートを楽しめるびわこ文化公園内にある滋賀県立美術館。常設展「SMoA コレクション −女性作家特集−」(〜12月8日・日)では、志村ふくみ展に出品されている《聖堂》を絵の中でまとった「志村ふくみ《聖堂》を着る」(福田美蘭)も展示されています。ほかにも、小倉遊亀はじめ滋賀にゆかりのある作家の作品を中心に見応えのある展示となっているので、こちらもぜひチェックを。
詳しくはこちらから!
滋賀県立美術館
この記事を書いた人