オトナトモダチ —相互交感—
俳優・ムロツヨシさん×映画監督・荻上直子さん
気の合う人といるのは楽しい。
でも、違いを乗り越えて共感し合える仲間を発見できるのもまた、大きな喜びです。
大人時代の「友だち」のあり方を考える対談シリーズ、今回は同世代のおふたりが登場。
新作映画での出会いは、お互いの価値観をおおいに揺さぶったようで……。
—はかり知れなさもあるけど、憎めない。ムロさんは本物の“愛されキャラ”
ムロさん(以下、ムロ) 緊張しますねぇ。ふたりで撮られるなんて、はじめてだし。
荻上さん(以下、荻上) そもそもふたりで写真なんて撮らないし(キッパリ)。
ムロ そういうこと言っちゃダメですよ!(笑)。でもねぇ、今回『川っぺりムコリッタ』に呼んでいただけて、僕、本当に感謝してるんです。監督の作る、日常でありながら非日常的な場で起こる出来事や心の動きを繊細に表現した世界に……そこには、僕みたいな賑やかな男はきっと必要ないんだろうと思ってたので。「うらやましいなぁ」って、ちょっと嫉妬も感じたりしながら。
荻上 フフフ。演じていただいたアパートの住人のひとり、島田さんは、寂しそうでちょっと怖さもあるんだけれども、どこか憎めない。そういう“愛されキャラ”みたいな部分が、ムロさんからとても感じられたので。
ムロ これまでいろんなことをやってきたんですが、40歳を過ぎて自分の中の本当の部分や嘘の部分、その両方を出していきたいなぁと思っていたタイミングだったので、うれしかったです。でも、現場での荻上監督は、予想をはるかに超えて恐ろしかったですよ!
荻上 アハハ! 何か、きっとすごく失礼なことを言いましたよね、私。
—僕の役者人生は、“荻上直子前”“荻上直子後”でキッパリ変わりました
ムロ 撮影が始まったばかりの時に「周囲に気を遣う、現場の空気を読む、スケジュールの進み具合を考える、そんなムロツヨシは要りません!」とはっきり言われて……どうか演じる人物のことだけを考えて現場にいてくれませんか?と。正直、「人生に天敵現る!」ってちょっとムカッとしました(笑)。ただ、こんなすごいことを言ってくださる監督さん、なかなか出会えないですからね。
荻上 ムロさんはエンターテイナーだから、気を遣ってたくさんのことをしがちなんだろうなぁと……でも、お伝えしたら、それからお芝居が変化したのがわかりました。たぶん、すごく努力してくださったんでしょう。
ムロ 「自分はこうでなきゃ」と、どこか勝手に決めつけてた部分があったんですよね。でも、作品に出演するということは、監督の世界に入ることだから、今までの自分は捨ててみようと。僕、今あちこちで言ってるんですよ。「僕の俳優人生は、〝荻上直子前〟と〝荻上直子後〟に分かれるんだ」って。
荻上 映画の中でも、同じアパートに住む人たちが偶然に出会って、それぞれに変化が起こります。どの人も世の中から置いてきぼりにされていますから、余計に助け合わなきゃいけない。ただ、彼らはどこかドライな関係でもあったりすると思うんです。誰かが引っ越しちゃったらそれっきり、みたいな。
ムロ 隣人でアパートを選ぶ人はいないから、それこそご縁ですよね。でも、台詞にもある通り、やっぱりごはんは誰かと一緒に食べたほうが絶対においしいしなぁ……コロナ禍になっての2年半、僕は寂しかったですよ。仕事が終わっても、ぜんぜん飲みにも行けないし。
荻上 ムロさんは友だちが多そうだけど、私は本当に少ないし、ひとりが好きなので。
ムロ 僕は「共演したら友だち」(笑)。でも、最近は〝友だち離れ〟を始めてます。
荻上 へぇーっ。
ムロ そうなんです。後輩にも家庭持ちが増えたし、自分からひとりになる時間を増やして、それを楽しめるように……。でも、まだまだ試している段階ですけど。
荻上 仕事仲間となると、友だちとはまたちょっと違うんですよね。一緒に仕事して、飲みに行って楽しくやって……でも、終わるともう電話もしない、みたいな(笑)。
ムロ そんなこと言わないで、また時期が来たらみんなで飲みに行きましょうよ! 今日の写真も、よかったら記念に額縁に入れていただいて……。
荻上 入れないし! え、入れるの?
ムロ 僕は入れますよ! これ、家に飾ってもいいですか?
荻上 じゃあ、サインしますよ(笑)。
映画 『川っぺりムコリッタ』
《自分が死んだ時に寂しいって思ってくれる人が一人でもいたらいいなって思ってるの》。ムコリッタ=仏教で1/30日を示す言葉。ささやかな日々の時間を、小さなアパートに隣りあって過ごす人々の交流を描いた、愛しいひと夏の物語。
監督・原作・脚本 荻上直子
出演 松山ケンイチ ムロツヨシ 満島ひかり
江口のりこ 黒田大輔 知久寿焼 柄本 佑 田中美佐子
薬師丸ひろ子 笹野高史 緒形直人 吉岡秀隆
2022年9月16日(金)全国ロードショー
俳優・ムロツヨシ
1976年生まれ。1999年、作・演出・出演を行ったひとり舞台で活動を開始。のちにドラマ、映画へ。最近の出演作に映画『神は見返りを求める』『マイ・ダディ』、ドラマ『雨に消えた向日葵』など。
映画監督・荻上直子
1972年生まれ。日米両国で映画製作を学び、2003年公開の『バーバー吉野』で長編作デビュー。代表作に『かもめ食堂』『トイレット』『レンタネコ』『彼らが本気で編むときは、』がある。
撮影/徳永 彩(KIKI.inc) スタイリング/森川雅代(ムロさん) ヘアメイク/池田真希(ムロさん) 文/大谷道子
大人のおしゃれ手帖2022年9月号より抜粋
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