言葉を伝え、表すための極意【俵万智さんインタビュー】
歌人として、言葉を探求してきた俵 万智さんの新刊『生きる言葉』。
日本語の足腰を鍛えることが生きる力になる、と話す俵さんに、言葉の磨き方を尋ねました。
繰り返し読むことでその言葉が栄養になる
SNSやLINEを通じた端的なコミュニケーションが増えた今の時代。便利な反面、短い
文章では言葉のニュアンスや自分の気持ちを伝えきれず、誤解を招きやすいもの。
だからこそ、「言葉の力をつける必要がある」と俵万智さんは話します。
「離れた人と手紙でしかやり取りできなかった時代は、時間をかけて文章を書き、読み直してから送りましたよね。今は簡単にスマホで連絡を取れますが、返事を急かされているような感覚になる分、言葉を吟味せずに使いがち。
X(旧Twitter)のように言葉だけが飛び交う世界も、対面と違って表情や声色など言葉以外の情報がそぎ落とされることに気をつけたい。せっかく言葉のやり取りが手軽にできるようになったのだから、それがいいものになってほしいですね」
では、言葉の力を磨くには何から始めればいいのでしょうか。
「まず自分の言葉を振り返ることが大事。『自分が発した言葉は大丈夫だったかな?』と立ち止まって思うだけで変わると思います。より磨くには、我田引水ですが、短歌を作るのがおすすめです。自分の心が揺れたときに立ち止まってふさわしい言葉を選んだり、五七五七七に当てはまるように整理したり、もっといい言葉はないかと探したり……。その繰り返しがトレーニングになります。
さらにお互いの歌を発表する『歌会』を開くと、選んだ言葉が思いどおりに伝わらないこともあれば、反対に、思いがけずプラスに受け止められる場合もあるとわかる。
普段、『今、私が言ったことわかってます?』『どう思いました?』なんて相手に聞けないですよね。歌会の場ではそれができるわけですから、面白いですよ」
ボキャブラリーを増やすには、ジャンルを問わずたくさんの言葉に触れることが一番の近道。
趣味の韓国ドラマを観るときも、台詞の妙に目が行くそう。
「本や雑誌だけでなく、ドラマを観ても面白い言い回しは見つかりますよね。私は気に入ったものを何回も観るたちで、『愛の不時着』は7回観ているんです(笑)。今は”タイパ”と言われるように短時間で多くの情報を得ることがよしとされますが、それは違う気がしますね。気に入ったものを繰り返し観たり、読んだりすることでより深く味わえて、出てくる言葉が自分の栄養になっていくのだと思います」
爽やかなグリーンの装いで。モダンな刺しゅうのジャケットは、「大好き」というミナ・ペルホネンのもの。
『生きる言葉』
俵 万智
¥1,034(新潮社)
長年、言葉と向き合ってきた俵万智さんが、言葉を伝え、表すための極意を紹介。
塩梅が難しい恋愛や日常の言葉、子育てを通して知った言葉の奥深さ、ネットやSNS 上で出合う予想外の反応……など、さまざまなシーンの言葉を歌人ならではの視点で考察しています。