【ブレイディみかこさんインタビュー〈前編〉】
「共感」とも「寄り添う」とも違う
大人が知っておきたい「エンパシー」って何?
分断、貧困、格差社会……
今こそ、ひとりひとりが身につけたい「エンパシー」
ⓒUndrey/PIXTA
ブレイディさんはイギリスに暮らして来年で30年目。「エンパシー」への気づきは、イギリスの社会背景とリンクして、日々の暮らしに大きな影響を感じるそうです。
―――ブレイディさんが「エンパシー」をメディアで伝え始めたころ、 お住まいのあるイギリスはどんな状況でしたか?
ブレイディ ちょうどイギリスがEUから離脱するかしないかでもめていたころでした。国民投票で決定するとは決まったものの、詳しいことが未定で。人々が激しく分断されていました。EU離脱後には、排外主義的なレイシズム(人種差別主義・民族差別主義)も一般的に高まった時期だったので、切実に「エンパシー」が大事だということになりました。社会がすごくギスギスしていて、みんな対立して分断していました。意思を投げ合うだけで、EU離脱の仕方ですら意見がまとまらなかったのです。こんなときこそ「エンパシー」だと思い出して、離脱派と残留派でいがみ合っているだけではなく、違う意見の人の立場に立って考えてみることでしか、社会全体がまわっていかないことに気づいたんでしょうね。息子の中学のシティズンシップの授業で、その言葉の意味を教えていたぐらいですから。
―――イギリスと具体的な状況は違うかもしれませんが、日本でもいま、貧困や格差、現役世代と高齢者などの分断が問題になってきました。
ブレイディ だから、「エンパシー」が日本でもすごく切実に必要とされている気がします。個人的には「エンパシー」には飽きていたんですよ(笑)。5年も6年も前に書いた本について、いつまで引きずっているんだと、思われていそうで。それでも、日本の人たちが興味関心を持っているということは、日本でいま「エンパシー」がすごく必要なことだと思うんです。
―――政治が不安定で、物価高や米の高騰、所得格差の問題が顕在化してきました。さらには極端な政策や思想を唱える政党が一躍注目を浴びたり、移民の問題もあります。
ブレイディ 日本でもいよいよ「エンパシー」がないと世の中が良い方向に回っていかなくなりつつあります。そう思うからこそ、私が「エンパシー大使」になって(笑)、書いたり、しゃべったりしているんじゃないですかね。
ブレイディみかこ
ライター、コラムニスト 1996年からイギリス在住。2017年『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で第16回新潮ドキュメント賞受賞。2018年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で第73回毎日出版文化賞特別賞受賞、第2回Yahoo!ニュース/本屋大賞ノンフィクション本大賞などを受賞。小説作品は『私労働小説 ザ・ショット・ジョブ』や『両手にトカレフ』など。近著には『地べたから考える――世界はそこだけじゃないから』。BBC放送の連続TVドラマ『EastEnders(イーストエンダーズ)』の大ファン。
ⒸShu Tomioka
『SISTER ❝FOOT❞ EMPATHY(シスター❝フット❞ エンパシー)』
著/ブレイディみかこ
¥1,600+税(集英社)
「他者の靴をはく」ように相手の立場に立ち、理解し合う。エンパシー力とシスターフッド力をかけ合わせたら、きっと人生が好転する。そう信じたくなる一冊。アイスランド発の「ウィメンズ・ストライキ」の女性たちの結束をはじめ、シスターフッドのドレスコードについて、焼き芋とドーナツから考える労働環境など、読むと❝自分らしく生きてみよう❞と力が湧いてくる39篇のエッセイを収録。
取材・文/田村幸子
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