時代が揺れ動く混迷を目撃せよ!
緊迫感あふれるドキュメンタリー作品3選
時代が揺れ動く混迷のとき、人は何を信じて、どこへ向かえばいいのか。
変化のうねりを描き出す政治サスペンスと緊迫感あふれるドキュメンタリーを紹介。
『アイム・スティル・ヒア』
©2024VideoFilmes/RTFeatures/Globoplay/Conspiração/
MACTProductions/ARTE France Cinéma
軍事政権下で奪われた家族の日常と残された妻の静かな決意を見つめる
1970年、軍事独裁政権下のブラジル、リオデジャネイロ。元国会議員のルーベンスと妻のエウニセ、5人の子供たちは穏やかな毎日を送っていた。ある日、ルーベンスは軍に連行され、そのまま消息を絶ってしまう。
『セントラル・ステーション』などで知られるブラジルの名匠、ウォルター・サレス監督が実際に起こった事件をもとに映画化。
まるでホームビデオのような映像で描かれる家族の風景、そして記念写真のなかの笑顔が幸せそうであればあるほど、残された者たちの痛ましい現実が胸に迫ってくる。国家に日常を奪われたとき、個人はいかにして闘い、生きていけばいいのか。
サレス監督は決して諦めることなく静かに力強く夫を思い続けるエウニセの魂を、時を超えて今の物語として描き出した。今年のアカデミー賞では作品賞、主演女優賞でも候補となり、国際長編映画賞を受賞。
監督:ウォルター・サレス
出演:フェルナンダ・トーレス、セルトン・メロ、
フェルナンダ・モンテネグロ
新宿武蔵野館ほか全国公開中
『大統領暗殺裁判 16日間の真実』
© 2024 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & PAPAS FILM &OSCAR10STUDIO. All Rights Reserved.
韓国史上最悪の政治裁判を題材に抑圧の時代を生きた人々を描く
1979年、韓国で起こった大統領暗殺事件。厄介な裁判を多く担当する弁護士会のエースが、暗殺事件に巻き込まれた中央情報部部長の随行秘書官の弁護を担当することになる。
しかしこの事件は、巨大権力の中心人物である合同捜査団長によって操られていた。『王になった男』のチュ・チャンミンが監督を務め、ドラマ『賢い医師生活』などでお馴染みのチョ・ジョンソクが主人公を演じた政治サスペンス。
この作品が遺作となったイ・ソンギュンが、家族を大切に思いながらも軍人としては揺るがない人物を演じている。手段を選ばない弁護士が芯のある軍人の生き方に触れて少しずつ変わっていく過程には成長物語としての側面もあるが、“韓国史上最悪の政治裁判”の裏側からは沈黙のなかに宿る痛みと悲しみが伝わってくる。
監督:チュ・チャンミン
出演:チョ・ジョンソク、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン
新宿武蔵野館ほかにて全国公開中
〈Netflix〉
『アメリカン・マンハント: オサマ・ビンラディン』
世界を揺るがしたテロと首謀者を追い続けた10年の記録
2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ。
国際テロ組織アルカイダの犯行だと突き止めた日から、アメリカは首謀者のオサマ・ビンラディンを追い続けることになる。
ワールドトレードセンターに飛行機が激突して煙と炎が巻き起こる、何度見てもショッキングな映像から幕を開けるNetflixのドキュメンタリー『アメリカン・マンハント:オサマ・ビンラディン』。10年にわたる追跡劇を数々のインタビューや記録映像を交えて振り返る全3話のシリーズだ。
ミスを繰り返しながら真実に近づいていく過程は、まるで緊迫感あふれる政治サスペンスのよう。『ゼロ・ダーク・サーティ』でジェシカ・チャステインが演じた主人公を思わせる女性CIA対テロ分析官たちの証言が、正義と報復の境界線についても問いかけてくる。
監督:ダニエル・シヴァン
出演:コファー・ブラック、ジーナ・ベネット、シンディ・ストラー
Netflixドキュメンタリー『アメリカン・マンハント:
オサマ・ビンラディン』独占配信中
選・文/細谷美香
大人のおしゃれ手帖2025年9月号より抜粋
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