【更年期エピソード】
「漠然と何かが足りない感じ」
子どもたちが相手だからあきらめられない

「ところがこの本がなかなか売れなかったんですよ。エディブル・スクールヤードの理念と実践を広めたくて本を出したので、これは問題でした。エディブルの中心人物であり、アメリカで最初のオーガニックレストランのオーナーシェフであるアリス・ウォータースの知名度が、当時日本で低かったのが要因でもありました。
だからオーガニック料理のバイブルと注目されていた彼女の料理本が出たというので、この日本語訳を出版することにしたのです」
ちょうど両親の介助が必要になって、実家にしばしば滞在することになったのも翻訳作業に集中する理由になった。
「親といるとクリエーティブなことってできないんですよね。翻訳ならば籠ってできるし、訳しながらアリスのことも学べると思ったんです」
2011年の震災を経て、2012年にアリスのレシピ本『アート・オブ・シンプルフード』(小学館)を共同翻訳で出版。2014年、60歳になった年に「エディブル・スクールヤード・ジャパン」の設立となった。フリーランスが心地よかった博子さんは、まさか自分が団体を運営することになるとは思ってもみなかったが、
「これからの人生をどうやって生きていくかを考えると、子どもたちとエディブル・スクールヤードを日本に根付かせてみたい、という興味がわいてきました。アリスたちが育んできたこの活動のピュアな精神を、日本でもそのままに大切に育てなければ、と強く突き動かされました」
経済格差や生まれの違いに関係なく、子どもたちが土から育つ健やかな生き物を自分の血と心にする一連の学び。これを理想だけでなく実践していくこと。
「アリスに、『困難が伴う活動だったと思いますが、なぜあなたは成功できたのですか?』と聞いた時に『あきらめないことよ』と言われました。それが最近わかるようになってきました。子どもたちを裏切れない。あきらめられないんですよね」
あきらめず続けていくと、次が見えてくるのだという。
「すぐに冷めて、嫌になっちゃっていた私こそが、エディブル・スクールヤードで成長しました。もちろん年齢を重ねて、身体的に衰えてきて落ち込んだりもしますが、自分のエンドが見えるからこそエンジンがかかるエネルギーが出てくる。次のステージがきていることがわかります」
都市のど真ん中、日本橋茅場町での挑戦となった食育菜園の舞台「Edible KAYABAEN」は、なんと証券会館の屋上という立地。
2022年のオープン以来、近隣の小学校と連携し、子どもたちに食べることの大切さを伝えている。
〜私を支えるもの〜
幼少期の家族写真と、小学校で菜園授業をしていた頃の写真。
「家族写真は父が撮ったもので、母の葬儀のときに添えました。母は花を育てるのがとても上手な人でした。
幼少期はよく一人で母の庭で過ごしたのですが、当時、私自身には植物を育てるチャンネルはなかった。でも、彼女の庭を絵に描いたり、詩に書いたりしていましたね」
「ハーブを束ねるのって楽しいですよね。大好きです。エディブルの庭はとても美しいんです」。
子どもの頃に好きだったものがエディブル・スクールヤードにはある。
「私が通った中学は2年生のときに、受験の準備で美術の授業がなくなりました。とても残念でした。だからエディブル・スクールヤードにこんなに夢中になるんでしょうね」
原子力発電所の見える場所で、死の直前まで庭を育て続けた映像作家の写真と言葉。
「ガーデンという場を感覚的に教えてくれた一冊です。
庭は単なる花壇ではなくて、いのちが発露するところ、哲学する場だということを。自然の中で自分を知る、自分を存在させているものを知る、美の場所でもあります」
聞き手:石田紀佳さん
手仕事と自然に関わる人の営みを探求するキュレーター。朝日カルチャーセンターなどで季節の手仕事講座を開催。池尻にオープンしたホームワークヴィレッジにて植栽管理。
村の庭ブログ:https://homeworkvillagegarden.blogspot.com/
撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里
※大人のおしゃれ手帖2025年12月号から抜粋
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