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2024年11月号

2024年10月7日(月)発売
特別価格:1480円(税込) 
表紙の人:西田尚美さん

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【舞台】舞台芸術を支える“裏方さん”を表彰!「ニッセイ・バックステージ賞」受賞者2名にインタビュー 
~「好き」が仕事を続ける原動力!~

大人のおしゃれ手帖編集部

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バレエやオペラ、歌舞伎、ミュージカル、人形劇など、人々を魅了してやまない舞台芸術。そんな舞台芸術をさまざまなフィールドから支えている、舞台技術者、いわゆる“裏方さん”。舞台づくりに貢献し、活躍している裏方さん贈られる「ニッセイ・バックステージ賞」をご存知ですか? 今年の贈賞式の様子とともに、第一線で活躍し続ける受賞者お2人のインタビューをお届けします。


ニッセイ・バックステージ賞とは?
公益財団法人ニッセイ文化振興財団主催。大道具や照明、音響、衣裳、舞台機構の操作技術者、舞台監督、劇場運営など。舞台の成功を裏から支えている舞台技術者に贈られる賞のこと。1995年の第1回目より、今年で29回目の開催となる。受賞者には賞金200万円と、年金年額50万円(65歳支払開始、10年確定年金)が贈られる。


2023年の受賞者は初の女性2名に!

今年は、全国の舞台芸術関係者約2300名の方に推薦をお願いし、のべ53名の方々が候補者として推薦されました。
選考基準は、永きにわたって舞台芸術を支え、大きな成果を積み重ねているだけではなく、後進の指導・育成にも尽力されているということ。

その結果、2023年は、舞台衣裳制作の林なつ子さんと、バレエピアニストの米田ゆりさんの2名が受賞。女性2人の受賞は、開催以来初めてのことだそうです。

2023年11月28日に、東京・日比谷の日生劇場で贈賞式が行われました。

日生劇場で行われた贈賞式。(写真提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団)

贈賞式当日、日生劇場のロビーに展示された受賞者2人の功績やプロフィール。

林なつ子さん&米田ゆりさん
受賞者のおふたりにインタビュー

1970年代当時、日本では数少ない衣裳製作工房を旗揚げ。50年以上数多くのバレエやオペラの衣裳を手がけてきた、林なつ子さん。

そして、高校在学時からバレエピアニストとしてのキャリアをスタートし、ダンサーと音楽家という異なるジャンルの橋渡し役を務め、双方から高い評価と信頼を得ている米田ゆりさん。

長きにわたり第一線で活躍し、確実なキャリアを築いてきたおふたりに、今回受賞したときの気持ちや、仕事への熱い想いをお聞きしました。

―この度は受賞おめでとうございます! 受賞を受けて、今のお気持ちをお聞かせください。

林さん(以下林):思いもよらぬ、大きな賞をいただいて驚いています。当時、私はバレエを見て「舞台衣裳の仕事をやりたい!」と直感的に思ったのですが、一体どうやって目指したらいいかわからない。まずは主催者に電話で問い合わせをして、そこからさまざまな人に繋いでいただき、キャリアをスタートしました。その時の出会いがなかったら、今の私はいないと思います。その後も舞台の現場でたくさんの人に出会いました。すべての方に感謝の気持ちでいっぱいです。

半世紀以上、舞台衣裳の現場で活躍し続ける林なつ子さん。

米田さん(以下米田):最初にお知らせいただいたときは、とにかく信じられなくて! ドッキリかと思ったくらい。「私がいただいていいの?」というのが正直なところです。私にとって劇場は、たくさんの優秀な才能が集まっている魔法のような特別な場所。その端っこでもいいから、ぶら下がっていたい!という思いで、今日まで続けてこれました。私の願いは、1日も長く現役でいること。これからもピアノを弾き続け、ダンサーたちと過ごせたら、という気持ちです。

バレエピアニストの分野として初めての受賞となる、米田ゆりさん。

―この仕事は続けていてよかったと思う瞬間や、原動力はどんなことですか?

林:特にバレエというのは、ダンサー、舞台美術、音楽、衣裳、演出など、すべてが詰まった総合芸術と呼ばれるものです。舞台上ですべて合致したときに「わあ、やった!やっててよかった!」と感動しますね。私は50年ほど前からこの仕事を始めて、この仕事だけしかやっていないのですが、辞めようと思ったことがありません。というのも、当時は同業者やライバルがほぼいなくて、考える暇がないまま走り続けるしかなかった、というのが正しいかもしれません(笑)。本当に仕事に恵まれましたが、衣裳を作ることが好き、ということだけでは原動力にならなかったと思います。舞台が好きで、音楽が好きで、ここまでやってこれました。

米田:私は音楽学校に通いながらも、東京バレエ団に所属し、バレエのことしか頭にないほど、とにかくバレエのことが大好きでした。残念ながら、途中で体を痛めてしまって、ダンサーの夢は諦めることになりました。バレエ団に所属していた頃、世界レベルで一流のダンサーたちと関わり、彼らにとても憧れて……。バレエの傍にいるにはピアノしかない!と、今のキャリアをスタートしました。そうして続けてきた結果、ダンサーが「米田さんのピアノで踊るといつもより上手く踊れる!」「途中でへばって、これ以上踊れないかもしれないと思ったけど、米田さんの音で最後まで踊れたよ」などと声をかけてくれる瞬間が、何より幸せな化学反応だなと思います。

贈賞式でトロフィーを受け取る林なつ子さん。(写真提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団)

舞台衣裳制作の林なつ子さんが手がけた、オペラ・バレエの衣裳。

―舞台はたくさんのプロフェッショナルが集まる場所ですよね。普段おふたりはたくさんの方と関わると思いますが、大切にしていることはなんですか?

林:やっぱり、コミュニケーションですね。私は舞台衣裳を制作するうえで“着たときに美しく見えるか”“舞台の上でも動きやすいか、踊りやすいか”ということを何より大切にしないといけません。そのために、作品の演出意図はもちろん、どういう踊りでどれだけ動くのかをきちんと理解する必要があります。使う材料から妥協はできません。デザイナーに頼まれた通りに作るのではなくて、何より舞台上の演者のために、そして良いものを作るために、考えて、ディスカッションすることは欠かせません。新しい挑戦がしたくて、時には振り付け師や演出家、デザイナーと意見がぶつかることもあります。でもきちんと話をすることで、「こういうことがやりたいのね」とお互いを深く理解することができます。衣裳を作ることに決まったルールはありません。試行錯誤することや、彼らとのやりとりも今では面白いですよ。

米田:私も林さんのお話を聞いていて、深く共感します。例えば、ダンサーの踊りやすさで「そのテンポだと速すぎて、ステップが回れないからゆっくりにしたい」と頼まれるとします。テンポを遅くすることで、ダンスは上手に踊れても、一曲として繋いだときに、音楽性が欠如してしまうんです。私にできることは、音楽的な視点と踊りの視点、両サイドから考えて工夫すること。ダンサーに言われるがままに、ただ遅くするのではなくて、ふわっとした柔らかい音色にすることで実は遅くしているけど、お客さまからはあまりわからないとかね。「ごめんね、それは音楽的にできないよ」とダンサーにきっぱり断ることもあります。また、ダンサーと音楽家の間に立ち、互いのコミュニケーションを支えることも私の役割でした。ダンサーは、楽譜が読めず、音楽用語もわかりません。バレエのステップはすべてフランス語で、マエストロ(指揮者)にはわかりません。バレエに音楽をつけている、と思っている方が多いと思いますが、実はそうではなくて。音楽が踊りを引っ張ったり、お互いで駆け引きをし合うことがバレエの面白さでもあります。なので、やっぱりコミュニケーションが一番大切ですね。

米田さんが掲載されたバレエ・音楽雑誌での記事や使用していた楽譜。楽譜に細かい書き込みが。

贈賞式で賞を受け取る、バレエピアニストの米田ゆりさん。(写真提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団)

新国立劇場で開催されたオペラ「こうもり」での衣装。林さん制作。

―若い世代の指導・育成にも尽力されているおふたり。これから活躍する方々に向けて、メッセージをお願いします。

林:私の会社の若いスタッフが今後どう育っていくかが何よりの楽しみです。これからも、もう少し一緒に苦労したいと思っていますので、ぜひとも頑張ってほしい! 日本の舞台を支えていけるスタッフになってもらいたいなと思います。

米田:優れたバレエピアニストになりたいなら、まずは優れた音楽家を目指しなさいと伝えたいです。私自身も、海外で活躍されている一流のバレエピアニストの方から「いいバレエピアニストになりたいなら、あなたのためになることは何でもやりなさい。その結果があなたをいいバレエピアニストにする」と教えてもらいました。今は音楽家として揉まれて、切磋琢磨して。そこで得たことをダンサーに還元することが、何より素敵だなと思います。あとは関わる現役のダンサーは年齢がどんどん若くなってきていますが、気兼ねなく、バレエや音楽の話ができたら嬉しいです。

米田さん、ダンサーたちとのリハーサル風景。

受賞者プロフィール

林 なつ子さん

株式会社シルビア衣裳部にてバレエ衣裳製作を始める。大手の衣裳会社数社のみしか存在しなかった1970年代から衣裳製作に携わり、1987年に衣裳製作工房「有限会社工房いーち」を設立。現在は製作に加え、舞台衣裳の知識を後進へ伝授し育成に尽力している。

米田ゆりさん

高校在学中よりバレエピアニストとしてのキャリアをスタートし、国内外のバレエ団で活躍。1997年の新国立劇場開場以来、同バレエ団の音楽スタッフを務め、舞踊家と音楽家という異なるジャンルの橋渡し役として、双方から高い評価と信頼を得ている。

撮影/古家祐実[SORANE] 文/阿部里歩
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