【対談】俳優・永作博美さん × 書家・華雪さん
「書」を通じて「美」を考える
「年を重ねることは、自分を見つめ直すこと」という永作さんがトライしたのは、「書」。
「書」を通じて映し出されたありのままの自分を知る体験は、「美」を考えるヒントになりそうです。
俳優
永作博美さん
1970年、茨城県生まれ。1994年、俳優デビュー。近年の出演作に映画『朝が来る』、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』、配信ドラマ『モダンラブ・東京』、舞台『月とシネマ2023』など。
書家
華雪さん
1992年より個展を中心に活動。文字の成り立ちを綿密にリサーチし、現代の事象との交錯を漢字一文字として表現する作品づくりに取り組むほか、国内外でワークショップを開催。
書の美しさには、正解がない。
だからこそ、そのときの心の状態がありのままに表れてしまうんです
永作:「書」はシンプルな世界だからこそ、自分自身が映ってしまうイメージがあります。だからこそ、書をやっている方は正面切って自分と向き合っているんだろうな……と尊敬しますね。
華雪:永作さん、書のご経験は?
永作:子どもの頃、祖父が毎日筆ペンで字の練習をしていたんです。傍から見ると上手なのに、「うまく書けないなあ…」と言いながら書いていたのが印象的でした。今思うと、書を通じて、自分というものを突き詰めていたのかもしれません。私はただ面白そうだな、と真似してやっていただけでしたけど。
華雪:書は、一筆で書き上げるからこそ、自分と向き合わざるを得ないところがあります。書の成り立ちからお伝えすると、もともと書は「記録するためのもの」として生まれ、美しさは求められていなかったんですね。書の美しさが引き立てられた最初の例が、書聖と言われた王羲之(おうぎし)の文字です。彼の代表作「蘭亭序」の一文字目は「永」で始まっていて、書に必要なすべての技法が含まれているとさえ後に言われるようになりました。今日は、永作さんのお名前にもある、この「永」の字を書いていきましょう。
永作:よろしくお願いします!
筆の種類もいろいろ
まずはウォーミングアップ
華雪:最初の点は筆の側面を使ってえぐるように、2画目は馬の手綱を引き締めるように。最後は肉を引き裂くように…と意識しながら書いてみてください。
永作:最後はかなり力強いんですね。ちなみに、二度書きがダメと言われるのはなぜですか?
華雪:ひとつは、乾くと跡が出て、不格好に見えてしまうから。それと、気が途切れてしまうのも理由です。筆が動く流れを「脈」と言い、二度書きするとその脈が断たれてしまうため、よくないとされています。ちなみに「永」の字は、大きな川の流れをかたどった象形文字なんです。諸説あります けれど、中心の縦線が大きい流れで、横の線は支流、点は水しぶきとも言われています。
永作:最近、水の流れに惹かれることがあるのではっとしました。その説明も含めて、書の奥深さをあらためて実感しますね。
「書」体験を終えて…
書を体験したいと思ったのは、「自分を見つめ直すこと」が必要だと感じているから。
年を重ねると、若い頃は生活に追われて見えていなかった空洞のようなものが現れて、それを埋めていく作業が必要になるんですよね。
書くことも、その助けになるような気がします。
永作さん着用:トップス¥41,800、パンツ¥37,400/ともにヴェリテクール、ピアスベース¥14,300、チャーム¥14,300/ともにテイクアップ
SHOPLIST
ヴェリテクール 092-751-7559
テイクアップ 03-3462-4771
撮影/枦木 功[nomadica] スタイリング/岡本純子 ヘアメイク/竹下あゆみ 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2024年5月号より抜粋
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