【インタビュー】COVER LADY5月号 永作博美さん
他者とどれだけ交わったか。
その経験が、自分を新しくしてくれる
「赤を着るのは久しぶり」と、はっと目を引く鮮やかなワンピースと、春らしい苺とともに撮影に臨んだ永作博美さん。
今は、3月まで放送されていた朝ドラ「舞いあがれ!」の撮影を終え、心と暮らしをリセットする時間に充てているそう。
「いったん現場からは離れて、ずっと後回しにしてきた家の整理をしようと思っています。昨日も一日中、家を片づけていました(笑)。でも、ちょうど季節の変わり目でもあるから、リセットにはちょうどいい。心と部屋は繋がっているので、まずは新しい始まりに向けて空間を整えていきたいですね」
朝ドラの撮影期間は、撮影スタジオのある大阪と東京を行き来する、めまぐるしい生活。
寂しい思いをさせたぶん、今は家族との時間を優先しようと決めています。
「お母さん、また仕事かぁ……という子どもたちからの印象を払拭して、安心させてあげたいので。もちろん撮影中も家のことはしていましたが、バタバタしている自分に疲れてしまって、これはよくないな、と。作品が終わるまでは、最低限のできることだけをしようと割り切りました。
私にとっては外で働く自分も大事なので、今はごめんなさいね、と言うしかない。皆さんも同じだと思いますが、働くお母さんは、『できること』と『できないこと』の境界線を決めたら、状況に応じてそのラインをずらしていけることも大切。
そうじゃないと自分がバランスを崩してしまって、家族にも、仕事にも悪影響なので。自分のなかでちょうどいいラインに柔軟に対応していかないといけないんですよね」
今は家のことで手一杯で、ほとんど自分の時間はないと笑う永作さんですが、「すき間時間を使って、体を動かすのが気持ちいい」と話します。
「ジムへ通う時間はないので、魚が焼けるまでの5分間だけ、腕立てふせをしてみたり、筋トレもできるゲームで子どもたちと一緒に遊んだり。最近はYouTubeにもエクササイズの動画がたくさんあるので、少しだけ早起きして、それを見ながらストレッチをすることも」
どんな人でもその人なりの努力と葛藤があって、今そこにいる
「舞いあがれ!」で演じたのは、ヒロイン・舞の母、めぐみ。
ヒロインの母親役というと、優しく朗らかで、いつもヒロインを温かく見守っている役、というイメージがありますが、本作では、めぐみ自身が母との関係に問題を抱えていたり、亡くなった夫の代わりに町工場の経営を引き継いで苦戦したり……と、物語の重要なパートを担う存在でした。
「めぐみの人生って、激しいんですよ。本来なら経験しなくてもいいような、ハードルの高い出来事が次々と起こって。お話をいただいたときは、舞が成長した後はそれほど出演シーンもないだろうと思っていたので、こんなにたくさん出るの? と私自身も予想外でした(笑)。
それにしても、朝ドラってすごいですよね。子どもから大人になって……という長い歳月を半年で描くわけですから。そのスピードに乗っている自分が不思議でした。
不思議なもので、毎日一緒にいると自然と家族になってきて、どうでもいいことまで勝手に心配するようになるんです。そういう経験も面白かったですね」
典型的な母親像を打ち破るような、めぐみのキャラクター。
それは、永作さんが当初から目指していたものでした。
「お母さんっていつもニコニコして家にいるのが当たり前と思われがちだけど、実は大変なんだよ、というリアルな日常を見せたかった。
彼女が心のなかでは何を考えていて、どんな過程を辿って〝お母さん〟になっていったのか。それをお芝居で表現できたらいいなと思っていました。
なんでもできる器用な母親にはしたくなかったんですよね。多分誰ひとり、器用な人なんていないですし、もちろん正解もわからないし。
どんな人でもその人なりの努力と葛藤があって、今そこにいるのだから」
何かを諦めなきゃいけないとしても、狭まるわけではない
仕事と家庭のバランスを考えると、出られる作品の数はどうしても限られます。
貴重な機会を、どんな役のために使いたいと考えているのでしょうか。
「『この役がやりたい』というよりはタイミングですね。それで、できるかどうかが決まってしまうので。いいタイミングが来たら、また皆さんの心をふわっと軽くできるような作品に参加したいですね。もし自分ひとりなら新しいことにも挑戦したいし、長く役と向き合うような作品もやってみたいけど、今はそうはいかないので」
けれども、環境によって選択肢を絞らざるを得ないことは、決してマイナスではない、ときっぱり。
「それはそれで、新しい影響を受けて自分が変化できるのだから、悪いことではないですよね。何かを諦めなきゃいけないとしても、狭まるわけではない。その選択は、自分にとって貴重な経験。結婚して、家族ができて、そう思うようになりました」
たとえ自由度が減ったとしても、人生は他者との関わりがあるからこそ、面白い。
永作さんにとって、それは家庭でも、仕事でも同じこと。
「自分ひとりなら好きにすればいいけど、誰かが一緒だと勝手にはできない。みんなで話し合う必要がありますよね。その過程や喜怒哀楽も楽しめる。
自分が柔軟になって人の意見を取り入れれば、それだけ新しいものが入ってくる。
『他者とどれだけ交わったか』という経験が、人を新しくするのだと思います」
HIROMI NAGASAKU
1970年、茨城県生まれ。1994年、女優デビュー。2011年、映画『八日目の蟬』で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞受賞。近年の出演作に映画『夫婦フーフー日記』『朝が来る』、配信ドラマ「モダンラブ・東京」など。2022 年後期の連続テレビ小説「舞いあがれ!」ではヒロインの母・めぐみを演じた。
永作さん着用:ワンピース¥48,400、中に着たキャミソールワンピース¥28,600/ともにスズキ タカユキ、シューズ¥60,500/トリッペン(トリッペン原宿店)
SHOPLIST
スズキ タカユキ 03-6821-6701
トリッペン原宿店 03-3478-2255
撮影/浅井佳代子 スタイリング/池田奈加子 ヘアメイク/竹下あゆみ
文/工藤花衣 協力/PROPS NOW
大人のおしゃれ手帖2023年5月号より抜粋
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