【著者インタビュー】柚木麻子さん『あいにくあんたのためじゃない』
小説そっちのけで励んだラーメン作りから見えてきたものは?
「善意」が「偽善」とたたかれる理由は?
——「BAKESHOP MIREY‘S」は、困難な環境から抜け出して、焼き菓子の店を開きたい……という夢を持つ若い未怜を、年上の秀実がサポートしようとするものの、偽善的な行為と見なされてしまう物語です。「大人のおしゃれ手帖」の読者世代にも、若い世代の力になりたいと考えている人は多いかと思うのですが。
柚木 これは私と秀実に共通する悪いところなのですが、相手の悩みを力業によって一瞬で解決したい、と思ってしまうんですよね。でも、津村記久子さんが『水車小屋のネネ』で描かれていたように、社会の格差や理不尽というのは、長期的な視野で解決しなきゃいけない。たとえば10万円渡すとして、それがどんな使われ方をしても構わないならいいんですが、それが相手を自分が望むままに動かすための10万円ならよくない。同じ10万円なら、月1回、相手に10年間お茶をおごったり、力になれそうな人を紹介する……みたいなやり方がいいと思います。
私が好きな『赤毛のアン』や『若草物語』のような海外の児童小説には、たいてい貧しくて風変わりな女の子が出てきて、お金持ちの人が彼女を助けてくれます。その根底にあるのは、社会的地位の高い人は、社会や下層階級に対して貢献しなきゃいけないという「ノブレスオブリージュ」の価値観です。だから、「BAKESHOP MIREY‘S」が『赤毛のアン』の世界なら、街の人は秀実を賞賛するし、未怜は背中を押してもらってめでたしめでたし、となる。でも、その価値観が根付いていない日本では、秀実の行為は叩かれてしまう。それでも秀実のおせっかいは全くのムダではなかったと描きたくて、ああいう結末になりました。
元気の源はたんぱく質
——ちなみに、最初に出てきたラーメン作りのお話のように柚木さんはすごくフットワークが軽いかと思うのですが、その原動力はどこから来るのでしょうか。
柚木 最近、やっぱりたんぱく質が大事だと気がついて。でも私はプロテインの味が苦手で、絶対に飲みたくないんですよ。代わりにコンビニで売っているゆで卵やたんぱく質のとれる練り物を買って食べています。そうすると元気が出るので、自分にとってストレスにならない味のたんぱく源を見つけて、おやつ代わりにするのはおすすめですよ。
『あいにくあんたのためじゃない』
著/柚木麻子
¥ 1,760(新潮社)
過去のブログ記事が炎上し、仕事を干されたラーメン評論家が、出禁となった人気店を再訪する「めんや 評論家おことわり」をはじめ、人生に行き詰まった主人公たちが自分を取り戻し、逆境をはね返して新たな道を開いていく、全6篇を収録。
柚木麻子(ゆずきあさこ)
1981年、東京生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほかの作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『ついでにジェントルメン』などがある。
Ⓒ新潮社
取材・文/工藤花衣
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