松之助オーナー・平野顕子さんの N.Y.からおすそ分け vol.4
器の楽しみ方
とにかく私は器が大好きです!
京都で育った私は、京焼をはじめ、たくさんの焼き物に触れる機会に恵まれていました。
大好きな陶器屋さんも、京都と東京に2、3件あります。
路面店やデパートで器を見かけると必ず立ち寄り、器に見入ってしまうこともしばしば。
食材や生活用品などを買い物するときは値段を見てから購入することがほとんどですが、器は例外。
一枚数万円もするようなものはもちろん考えますが、気に入ったものを見つけたらほぼ購入してしまうほど器には目がないんです。
そして、気付けばお店が開けるくらいたくさんの器に囲まれていました。
「京都ではお料理は器で食べるのよ。
そして器は音を立てないように丁寧に洗うの。欠かしてしまったら価値がなくなってしまうから」
器好きの母からは、口癖のように言われていたこともあり、器を見るとまず思うのは、これにどんなお料理を合わせようかということ。
さらに、どんなふうに使えるか、自分の持っている器とどう合わせると魅力的かなど、色々思い巡らせて自宅に連れて帰るんです。
それがまた楽しい‼
自分の好きな器に、その色と柄に合わせてお料理を盛り付けて全体が仕上がると、もうそれだけで食事の時間も楽しくなるし、より美味しくなるような気がするんです。
94歳で亡くなった母の形見で受け継いで使っている器がいくつかありますが、その中で今も普段使いしているのがこの丸皿。
母が70年もの間使っていたお皿で、私が物心ついてから毎日のように目にしてきたものです。
藍色の葉の柄の白皿はどんなお料理も映えるし、サイズ的にも使い勝手が抜群。
朝食のパンとオムレツも、カレーライスも、母はこのお皿になんでも盛り付けていました。
形あるものはいつかは割れたり、欠けたりしてしまうけれど、大事に使っていくことで、食卓の思い出までしっかり受け継がれていきます。
季節によって、よくつくっていた母の大好きな料理をふと思い出し、思い出の器を引っ張り出してきて、お料理をつくっていただいています。
私のお気に入りの器セレクション
アメリカの自宅はマンションでスペースも限られているので、日常使いができるものとお気に入りをいくつかセレクトして使っています。
トランクルームと日本の自宅には、今のマンションには到底入りきらないほど大量の器を保管しています。
そして、年に何回かはいくつか取り出しては持ち帰り、テーブルコーディネートをして楽しんでいます。
この片口は、写真家の浅井慎平さんの息子さんである浅井竜介氏の作品です。
京都のラインベックで展示会をしたこともあります。
片口は液体のものを入れることにこだわらず、炊きものを盛ることも多いです。
これからの季節は、母がよくつくっていた茄子の炊きものをのせます。
古伊万里も大好きです。
特に藤塚光男氏の器は、古伊万里以上に古伊万里を感じさせてくれて、やわらかな濃淡、独特な風景に惹かれます。
この楕円深皿はどんなお料理をのせても引き立ちます。
こちらは、テーブルコーディネーターの先駆者、クニエダヤスエ氏の伊万里風プレート。
母がクニエダさんのお姉さまで作家の木村梢さんと同級生で、そのつながりで私も懇意にさせていただいていました。
古伊万里を愛して数々の器をつくりつつ、素敵な食卓を提案されていらっしゃいました。
このモダンな古伊万里風が気に入っています。
京都にいるときはよく出かけていた東寺の骨董市で見つけたアンティークの器。
毎月第一日曜日に開かれるんですが、散策するだけでも楽しめる古雑貨が集まっています。
機会があったら是非!
日々の暮らしに定番で使っているものがこの3種。
大皿は朝食プレートにしたり、パスタやおかずの盛り合わせをのせています。
丸皿は取り皿に、角皿はお刺身や焼き魚をはじめ、和食のワンプレートにすることも。
豆皿は持っているだけで嬉しい! 副菜やお漬物、スパイスなどをちょこっとのせるのに◎。
さらに小さい豆皿は箸置きがわりにして使っています。
京都のセゾン・ド・ジャポンさんや髙島屋で購入しました。
箸置きは可愛いのを見つけるとちょこちょこ買ってしまいます。
この小さなアクセントが食卓をキュッと締めてくれますし、季節を感じられるものだとほっこりしますね。
【番外編】
古くなったおひつは小物入れとして活用
これは使わなくなった古いおひつですが、インテリアとしてとても映えるんです! ただ出しておくだけでは勿体無いので、中に普段よく使用するパフュームを入れています。
主人や友人に、私のものの使い方のアレンジがユニークだとよく言われます。
おひつにしてもそうですが、まだ使えるのに捨ててしまうのは勿体無いので、何かに使えないかしら?と思ってしまうのです。
もともと、あれこれ考えるのは嫌いではないのですが、海外に長く住むようになり、また倹約家の夫と生活するようになったことでより発想が広がった感じがします。
食器一つにしても、夫や義母は文化の違いなのか、たくさんものを持つことにこだわりがなく、どんな料理にも合うようにと白の器が基本です。
当然ながら、洗い方や扱い方もあまり気を使うようなことはしません。
でも、それは悪いことでは決してない。
私は、限られたもので、日本にはない習慣をどう楽しむか、をこれまでになく考えるようになりました。
この歳になっても新しい発見ができる人生に感謝です。
自分の好きなものは大事にしつつ、価値観の違いも楽しんで生かすことのできる日々を大切にしていきたいですね。
平野顕子
料理研究家、スイーツ店「松之助」オーナー
京都の能装束織元の家に生まれる。47歳でアメリカ・東コネチカット州立大学に留学。17世紀から伝わるアメリカ・ニューイングランド地方の伝統的なお菓子作りを学び、帰国後、京都・高倉御池に「Café & Pantry 松之助」、東京・代官山に「MATSUNOSUKE N.Y.」と、アップルパイとアメリカンベーキングの専門店をオープン。京都と東京にはお菓子教室を開校。2010年、京都・西陣にパンケーキハウス「カフェ・ラインベック」をオープン。著書に『アメリカンスタイルのアップルパイ・バイブル』(河出書房新社)、『「松之助」オーナー・平野顕子のやってみはったら! 60歳からのサードライフ』(主婦と生活社)など多数。プライベートではひとまわり以上年下のイーゴさんと再婚し、サードライフを過ごす。
text/Emiko Yashiro(atrio)
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