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2024年10月7日(月)発売
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【橋口亮輔監督×江口のりこさん】傷だらけになった大人がお母さんに守られていた頃の”無垢”に気づいてもらえたら/映画『お母さんが一緒』インタビュー

大人のおしゃれ手帖編集部

外を見る江口のりこさん。

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橋口亮輔監督がキネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位をはじめ数多くの映画賞を受賞した『恋人たち』(2015)から、9年ぶりに放つ長編監督作『お母さんが一緒』が、7月12日(金)より公開されます。ペヤンヌマキの同名舞台を原作に、母親の誕生日に温泉旅行をプレゼントした三姉妹の悲喜こもごもを描く人間ドラマである今作。主人公で妹たちにコンプレックスを抱く長女・弥生を演じるのは、映画、ドラマに大活躍の人気俳優、江口のりこさん。橋口監督と江口さんに、作品への思い、ご自身の家族への思いを聞きました。

映画を見た後に“無垢”が残っていればいい。演出家の役割を考えさせられた作品でした(橋口監督)

橋口亮輔監督と女優・江口のりこさん。

―橋口監督と江口さんは、橋口監督が手がけた2008年の映画『ぐるりのこと。』以来の本格タッグとなります。

橋口 長女の弥生役が一重まぶたというのは、どうしても外せない条件だったので、最初から江口さんにお願いしたいと思っていました。でも、ご存じのように江口さんは超売れっ子で本当に忙しい方なので引き受けてくれるか心配だったのですが、ダメ元で聞いてもらったんですよね。打診したのが昨年の6月だったのですが、9月が空いている、と。江口さん自身も二つ返事で受けてくれたと聞いて、「江口さん、ほんとに?」と。そこからこの作品は始まりました。

江口 『ぐるりのこと。』で一度ご一緒させてもらったとき、私の撮影は一日だけで終わっちゃったんですよね。また機会があったら、絶対にご一緒したいと思っていましたし、橋口さんの映画をいろいろ観させていただいていて、好きだったので、まさかのオファーをいただいて、絶対やりますって即決でした。

―今作はペヤンヌマキ主宰の演劇ユニット「ブス会」が2015年に上演した同名舞台を基に橋口監督が自ら脚色を手がけ、CS放送「ホームドラマチャンネル」が制作したドラマシリーズを再編集して映画化。監督が本作を脚色、演出する上で意識したことは?

橋口 ずっとつまらないことで喧嘩してる話なんですよね(笑)。最初はドラマでやりましょうって話だったんですけど、すぐに映画でもやりたいっていうことになって、両方をちゃんと成立させるためにどうしたらいいか考えました。そのときに考えたのが、例えば映画だと、古い作品になりますが、成瀬巳喜男さんの『あにいもうと』です。これは森雅之さんと京マチ子さんが、ずーっと兄妹で喧嘩している話です。愛し合っているくせにずっと罵倒し合う。でも、見終わった後に、こちら側に何も嫌なものが残らない。そんな憎しみ合って、パーッと激しい喧嘩をするのに、こっち側に嫌なもの見ちゃったなっていう後味がないんですよね。そういう、きれいなものが最後に残ってるっていうものにしようと。あるいはドラマでも、今の方はちょっと古くさいと感じられるかもしれませんけど、NHKでも向田邦子シリーズの『阿修羅のごとく』やドラマ人間模様の『夢千代日記』とか、いいドラマをやっていました。テレビですから、映画と撮り方は違います。6カメ、7カメぐらいで一気に撮ってしまうような。だけど、そこで描かれている人間のドラマ、感情っていうのは、ちゃんと見られていました。ドラマでも映画でも成立する。いわば、ハイブリッドですよね。この作品も、そういう要素が入っていると思います。今回は3カメで撮りましたが、混ぜこぜにして発想したような感じでした。

―撮影前、監督はリハーサルを行ったそうで、そのリハーサルは、江口さんにとって役作りの助けになったと聞きました。

江口 リハーサル、すごく楽しかったですね。でも、わーいっていう楽しさではもちろんなくて(笑)、緊張感はありました。リハーサルで監督がお話をしてくれるんですよね。こういう女性がいて、こんな人と出会って、それはこんな人でこんな感じだったみたいな。それを話してくれることによって、自分の役と共通するところだったり、そのエピソードだったり、自分が今からやる役にアプローチするためのヒントとなっていくんです。しかも、その話がいちいち胸に刺さるんですよ(笑)。だから、リハーサルではあるけれど、何か面白い話を聞きに行っているみたいな感覚でした。映画館に行ったり、劇場に行ったりするみたいな気分も味わえて、リハーサルの期間の4日間すごい充実して楽しい時間でした。

橋口 最初、リハーサル自体やるかどうか迷っていました。みなさんプロでしょ? こんなことやる必要があるんですか?といって、リハーサルから帰ったという有名女優の話を聞いたりもして、そんなこといわれたら心折れてしまうと思って(笑)。江口さんがこんなに売れっ子になって、「リハーサル? そんなの私できないわ」っていわれたら、僕もう立ち直れないなって思ったんですけど、方言もあるし、セリフも多いってこともあって、直前でやっぱりちゃんとやろうと腹が決まりました。それでリハーサルに入って、最初にお話をしたんですよ。生(なま)がないと芝居はダメだと思うっていう話ですね。「どうだろう、大丈夫かな?」と思ったら、みなさん受け入れてくれて安心しました。江口さんは、あまり何も言わないんですよ。「監督、それどういうことですか?」とか、リアクションがないんです。でも、チラッと見ると、にたーって笑ってたりする(笑)。

江口 (笑)。それは楽しかったからでしょうね。

橋口 それで「あ、大丈夫なんだ」って。こっちもドキドキしながら発言してるんですけど、江口さんはにたーって笑って、楽しんでくれたって思って。姉妹を演じるあとの二人、内田(慈)さんと古川(琴音)さんも、お芝居が好きで、ちゃんと関わってくれるっていうか、そういうスタンスでやってくれていたので、そういうことも確認できる時間でした。あと、“無垢”が残っていればいいっていう話をしました。何それって感じだと思うんですけど、あれをしてくれ、これをしてくれ、弥生という人間をこういうふうにしてくれっていうことは、一言も言ってないと思うんですけど、最後に無垢が残っててほしいって話しました。傷だらけになった女たちが喧嘩いっぱいして、彼女たちが、私、ちゃんとここ(心の中)にまだ無垢があるっていうことに気づけて、作品としてもちゃんと無垢があることが出口としてあったらいいんじゃないかなって。だから今回、演出家の仕事ってなんだろうって、本当に考えました。原作が他にあって、自分で捉え直してやるわけですけど、さらに自分の作品にするうえでどうすればいいんだろうって考えたときに、ここに行きますっていうのを示せばいいんだなっていうことを今回考えた作品でもありました。みなさんが持っているものを使っていただいて、ここに行きたいんですっていうことをいうだけで、みんな安心するのかな、と。

笑いあう橋口亮輔監督と江口のりこさん。

なごやかな雰囲気の橋口亮輔監督と江口のりこさん。

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