料理研究家・藤井 恵さん【著者インタビュー】
フライパンからトング、菜箸まで 道具愛にあふれたキッチン
テレビや雑誌、書籍を通じて、多くのレシピを提案し続けてきた料理研究家の藤井 恵さん。初心者にも簡単で作りやすく、何よりもおいしいレシピに助けられた人は多いのではないでしょうか。藤井さんの料理を支えているのが、信頼する調理道具たち。最新刊『藤井 恵 選りすぐり道具とレシピ』は、愛用の道具と、そこから生まれたレシピを紹介した、楽しさあふれる一冊です。
道具探しは趣味。キッチン収納は集めた道具でいっぱいです
——新刊の『藤井 恵 選りすぐり道具とレシピ』では、フライパンに鍋といった基本のアイテムから、計量スプーンやスライサーといった細かいツールまで、厳選した道具が紹介されています。
道具は単に“仕事のため”というだけでなく、私の趣味でもあるんです。まだ駆け出しの頃、コツコツお金を貯めて、初めて買ったル・クルーゼの鍋で作った料理のおいしさといったら! びっくりするほど感激して、「道具でこれだけ変わるんだな」と実感しました。使ったことのない道具を見ると、「この道具はどうやって使うんだろう」「これを使ったらどんな料理ができるんだろう?」と好奇心が湧いてきて。海外へ行ったときも必ず市場とキッチン用品店に寄って、さまざまな道具や器を買って帰ります。スーツケースに入らないサイズのものやガラス製のものは手荷物で持ってくるので、いつも帰りが大変(笑)。
——これまで集めた道具は、相当な数になるのでは?
キッチンの収納に詰め込んでます(笑)。たまにしか使わないものも多いけど、なくなったら寂しい。木べらは50本以上、お玉やトング、しゃもじも何十本もありますね。さすがにもう増やさないようにしよう……と思いつつ、同じ道具でもサイズや形、素材が少し違うだけでもまったく使い心地が変わるので、いろいろ試したくて。
——いくつもの道具を試すなかで、「毎日使いたい」と思うものは、何が違うのでしょうか。
毎日使うものだからこそ、手にしっくりなじんで、ストレスなく使えることが大事。洗うのも楽で、料理が“腕以上”に上手く仕上がるものを選びますね。料理ってただでさえ面倒なときがあるのに、道具が使いにくいと本当に作りたくなくなってしまう。道具に助けられて、料理をしていることもあります。
——とりわけ時間をかけて、トライアンドエラーを重ねたツールを挙げるなら?
ピーラーと菜箸でしょうか。ピーラーは洗いやすくて切れ味のいい「リッター」を愛用しています。もっと薄くむけるものもあるけど、食材をリボン状にスライスした「リボン鍋」を作るときは、リッターのピーラーがちょうどいい。外で料理の仕事をするときも必ず持って行きたい道具のひとつです。菜箸も何十本も持っていますが、最近では力をあまり入れなくてもつかめる、太いものに落ち着きました。やっぱり手の力って年齢とともに弱くなるので、太いけど重くないことも重要です。
年齢とともに、選ぶ道具や作る料理も変化
——年齢やライフステージの変化とともに、作る料理も使う道具も変わってくるものかと思います。いろんな道具を試すなかで、選び方はどのように変化してきましたか?
仕事では仕上がりの美しさも重要なので、きれいに焼き上がるフッ素樹脂加工のフライパンを愛用してきたけれど、最近は韓国の鉄鍋や陶製のパエリア鍋など、フッ素樹脂加工以外のものも愛用品に加わりました。米とぎざるもステンレスではなく、竹製のものを乾かして使うように。竹のざるでとぐと米が傷つきにくいからか、手の中で米が踊るような感覚なんです。
——そうした変化は、何が理由なのでしょうか。
18年間、出演してきた料理番組『キユーピー 3分クッキング』を卒業したことも大きいですね。収録では約7分間でミスなく料理を作り終えないと、すべて撮り直しになってしまうんです。撮影中は、終了時間3分前、30秒前、10秒前……とずっと指示が出続けます。そういう緊張感のなかでミスなく終えようとすると、どうしても自分にもまわりにも厳しくなってしまう。道具に対してもとにかく早く、効率よく、失敗なくできることを求めていました。今は長野と東京の二拠点生活を始めたこともあり、道具も食材も器も、地元で作られたものを丁寧に使いたいと思うようになりました。
——時間に追われていない今は、生まれるレシピも以前とは違うものになりそうですね。
きっとそうなると思います。じっくり丁寧に、でも無理なくできる料理が中心になって、反対に子育て世代に向けた時短レシピのようなものは減っていくんじゃないでしょうか。仕事と子育てと家事で手いっぱいだった頃は、何もかもが面倒だったんですよ。大好きだった料理を仕事にしたはずなのに、「なんでこんなに楽しめないんだろう、本当は一つひとつの仕事ときちんと向き合いたいのに……」と感じていた時期もありました。でも、今は全然違う。その土地の水や空気、食材の個性を感じながら、時間をかけて作るのが楽しいんです。
*次ページでは藤井さんお気に入りの道具について語っていただきました。
無水鍋、鉄鍋、米研ぎざる……お気に入りの道具たち
釜浅商店の鉄鍋
厚手で蓄熱性の高い「釜浅商店」の鉄鍋。「浅型で火の通りが良いのが特徴。オーブンにもそのまま入れられて、食卓にも鍋ごと出せます」
握力が弱くてもラクにつかめるトング
トングは「コンテ」の「おてがる料理トング」を愛用。「とにかく軽くて、握力がなくてもつかめます。シンプルな形状で洗いやすいのもいいですね」
普段は太めの菜箸を
愛用する菜箸は東京・富ヶ谷の「黄魚」で購入。「普段の調理はこの太めの菜箸で」
細い菜箸は卵焼きに
こちらは細い菜箸。同じく菜箸は東京・富ヶ谷の「黄魚」で購入。「盛り付けや卵焼きを作るときは細いほうがやりやすいので、竹製の細い菜箸を使っています」
ざるの中で米が躍る! 米研ぎはざるを愛用
竹製のざるは米への当たりも柔らか。「なでるように丁寧にとぐと米も喜ぶようで、炊き上がりもピカピカでおいしいんです」
profile
藤井 恵(ふじいめぐみ)
料理研究家・管理栄養士。女子栄養大学栄養学部卒業。普段のおかずからお菓子、ハレの日の料理まで幅広く手掛ける。栄養知識を活かした、体を整えるレシピも好評。
取材・文/工藤花衣 写真提供/宮濱祐美子、主婦の友社
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