【浜島直子さんインタビュー】日々の喜怒哀楽を、優しく、楽しい視線ですくいとったエッセイ集『キドアイラク譚』
「大人のおしゃれ手帖」のファッションページや暮らしの取材でもおなじみの浜島直子さん。“はまじ”の愛称で、モデルだけでなくタレント、エッセイストとして幅広く活躍するなか、エッセイ集『キドアイラク譚』(扶桑社)を刊行しました。毎日の暮らしのできごとを「喜怒哀楽」4つの視点で綴る36篇は、読むほどに心が整うと評判です。はまじさんにお話を伺いました。
装丁は、「あべはまじ」名義で刊行している絵本でお世話になった菊地敦己さんによるもの。「喜怒哀楽の感情をお天気で表現してもらったのですが、そのデザインを見て、はじめの文章を書き替えたほど! さすが敦己師匠~!って」とはまじさん。
なんということのない日々に、お天気のように訪れる“喜怒哀楽”
上京したとき、母が持たせてくれた計量カップに書かれたサインペンの「米」の文字、実はおでこの生え際につむじがあること、人違いだと気付かずに話し続けてしまった相手の表情……。誰の日常にも起こり得るささやかなできごとに宿る「喜怒哀楽」をすくいとって綴る『キドアイラク譚』は、はまじさんにとって3冊目のエッセイ集になります。
「私は、仕事以外の日常生活は本当に地味で、趣味もなければ特技もないような人間なんです。だから、今回の書籍のお話をいただいたときも『何が書けるだろう?』と、考えてしまいました」
最初は、スタイルブックに、という案があったり、フォトエッセイのような形で、衣食住をテーマに書くことを考えていたそう。でも、実際に書き始めてみると、ライフスタイルを語る内容はしっくりこなかったのだとか。
「そこで、生活のなかの些細なできごとを、喜怒哀楽の4つの部屋に分けていく感覚で文章にしていこうと。冒頭の、母が『米』と書いてくれた計量カップの話は、最初は衣食住の“食”で書こうとしてうまくいかなかったのですが、”喜“という感情をテーマにしてみたら、するするっと筆が進みだしたんです!」
家族のこと、仕事のこと……誰の身の回りにも起こりそうな日常の「あるある」話が、軽やかに、ときにシャープに、あるときはコミカルに、はまじさんの感情とともに色鮮やかに描き出され、いつの間にか自分も心を重ねているような読み心地です。
「できごとや感情をパッケージするような、額装を選ぶような気持ちで喜怒哀楽に分類していったんです。また、『怒』とひとくちに言っても、真剣に書くのか、お祭のように明るく書くのか……。この気持ちにはどんな額縁が合うのだろう? ナチュラルで優しい木の額縁? それともビビッドでポップな人目を引くようなフレーム? そんな感覚でしたね」
なかには、喜怒哀楽以外にも「奇」や「ド」という、物語の萌芽を感じさせる内容も。余韻が残る奇妙な味の物語もあり、はまじさんの書き手としての新たな展開も予感させてくれます。
「“喜怒哀楽”のなかに、変わり種として潜ませています。変わり種も自分の体験がベースになっていますが、フィクション、物語の要素もあって。本のタイトルにつけた“譚”という文字は物語という意味。村上春樹さんの『東京奇譚集』で初めてこの言葉を知ったのですが、それが頭に残っていて、今回のタイトルにつけてみました」
ポジティブではない感情も
水族館のなかの魚を見るように眺める
「私は自分のことを、なんてつまらない人間なんだと思っているのですが、でもそれをネタにして書くことによって、自分にマルをあげているような感覚でした。つまらない自分でもいいんだよって」
感情を起点に生まれたさまざまな「物語」。スーパーマーケットで見知らぬ男性に大声で怒鳴られたこと、朝の支度が遅い息子にイライラしてしまう自分など、決してポジティブではないできごともあるけれど、その視点は穏やかで、ときにユーモラス。
――どうしても何かを許せないとき、許すことができない自分の器の小ささにも嫌な気持ちになってしまうことがあります。そんなときは無理に許さなくていい。ただ、それに囚われるのをやめてみること。そのまま水に流すのだと。(「怒りの所在地」『キドアイラク譚―怒』より)
「若い頃は、感情的になると水に溺れたようにもがいていた気がします。でも、年齢を重ねた今は、喜びも怒りも、少し俯瞰して見られるようになりました。『怒りの所在地』でも書きましたが、サメのように狂暴な気持ちも、熱帯魚のような楽しい気持ちもあるけれど、自分は水族館の館長で、すべて水槽の中に入れてそれらを見ている。自分が溺れることはないし、水槽の壁があるから水がこちらにかかることもない。もし水槽の中に入っても、水上に上がる方法も泳ぎ方も今はちょっとわかっているという感じもあります」
大人になってもいまだに扱いづらい!と感じることがある自分の感情。心の持ちようや整理の仕方は、大人世代の女性にとっても参考になりそうです。毎日のお天気のように喜怒哀楽を受け入れ、大切に向き合う。読み終えたとき、日々が愛おしく感じられること、間違いありません。
PROFILE
浜島直子(はまじま・なおこ)
1976年生まれ、北海道出身。モデル、文筆家。スタイルのある暮らしとナチュラルでユーモアあふれるキャラクターが支持され、女性誌、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍中。著書に『蝶の粉』(ミルブックス)、『けだま』(大和書房)など。日々の生活を綴るインスタグラムも人気。
『キドアイラク譚』
家族、仕事、ファッション、美容……浜島直子さんが毎日の暮らしを「喜怒哀楽」の視点でつづったエッセイ。各章にプライベートショットも掲載した一冊。
浜島直子/著 ¥1,760(扶桑社)
撮影/中島千絵美 ヘアメイク/ナライユミ 文/田中絵真
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