南果歩さん I am Here！ 〜夏の夜の夢〜

9月6日から日生劇場で『夏の夜の夢』の幕が開きました。

私にとって3度目のシェイクスピア作品。
この作品は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲の中でも、最もコメディー色の強い作品です。

最初のシェイクスピア作品との出合いは22歳の時。私にとっての初舞台『ロミオとジュリエット』でした。
映画のオーディションを受けて、20歳でデビューしたものの、最初の撮影のインパクトが強すぎて、それ以上にやりがいのある役を求めてしまい、なかなかこれぞという作品にめぐり合えず……。

このままお芝居から離れてしまうのかなと思っていた矢先に、坂東玉三郎さんのインタビュー記事を新聞で読んだのです。
初演出にあたり、まわりに何を言われようと、今、自身がやりたいと思うこと＝演出に、ひたすらに取り組むだけだと語っていらっしゃいました。
その記事を読んだ瞬間、私は雷に打たれたように「この方とお仕事がしたい」と強く思ったのです。

翌日、早速お手紙を書き、歌舞伎座の楽屋へと向かいました。まったくもって無謀の塊です。
その道すがら日比谷花壇に立ち寄り、ミニバラのブーケを買い求めたのですが、その店内で流れていたのが、映画『ロミオとジュリエット』のニーノ・ロータの音楽でした。
私は何かが後押しをしてくれているように思えて、勇気をもらったのを覚えています。

ブーケを携えて歌舞伎座の楽屋に向かった私は、入口で当然のように係の方に優しく止められたのですが、お手紙とブーケをその方に託して家路につきました。

しかし、それがきっかけでオーディションを受けられることに。
ここでお芝居ができなければお芝居から離れようと本気で考えていたので、このオーディションに人生をかけて臨みました。
そして、見事にジュリエット役をつかむことができたのです。

2度目のシェイクスピア作品は30代。
『ガラスの動物園』のローラを演じていた時に、演劇のプロデューサーの方から次は何を演じたいかと尋ねられ、即座に「マクベス夫人」と答えたのがきっかけで、幸運にもお役がめぐってきました。

私が今まで観た『マクベス』はミドルエイジの俳優さんが演じていましたが、私の解釈は、あの上昇志向は相当の熱情を持った夫婦であろうと考えたのです。
つまり年齢的にも肉体的にも若い内にマクベス夫人をやりたかったのです。
演出はルーマニアからやって来たアレックス・ダリエさん。
2度のシェイクスピアを経験した私は、どこかで満足していた自分がいました。

しかし『夏の夜の夢』のお話を頂き、久しぶりのシェイクスピアに心ときめくものがありました。
一筋縄ではいかない、あのセリフにもう一度挑戦してみたいと思ったのです。

今回の演出は、蜷川幸雄さんの右腕として、長年、演出助手を務めてきた井上尊晶さん。
蜷川さん演出の『グリークス』でご一緒して以来、井上さんが演出家となって再会できたことに感動を覚えました。

今回は中村芝翫さんをはじめとする個性豊かなキャスト陣、音楽は松任谷正隆さん、河合祥一郎さんの翻訳はそのままで、舞台を日本に置き換えています。
私は妖精の女王ティターニアとアマゾンの女王ヒポリュテの二役を演じます。
今、この座組みで3度目のシェイクスピアの世界に浸れるのはこの上ない幸せです。

皆さんに、しばし浮世の憂鬱を忘れられるような夢を、劇場でご覧頂ければと思っています。お楽しみに！

文／南 果歩　撮影／野口貴司(San Drago) スタイリング／坂本 久仁子　ヘア＆メイク／国府田圭
大人のおしゃれ手帖2022年10月号より抜粋
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