【神野三鈴さん】
「ステレオタイプは誰のため? 」
自分がなりたい自分に楽しんで挑戦中!
海の向こう、子どもの頃の大きな夢を叶える大谷選手の超人的な活躍、今年もたくさん楽しみました。感謝です。
実は野球が大好きだった私は、沖縄で過ごした小5から中1の3年間、当時、男子しか入れない野球部に無理を言って入れてもらい、真っ黒に日焼けしながら野球漬けの日々を送っていました。
メジャーのハイレベルなゲームの醍醐味はもちろんなのですが、大好き! だからどんなに苦しくても楽しい! という、純粋な気持ちでプレイをしている大谷選手の姿にとても幸せな気持ちになるのです。
子どもの頃に芽生えた「好き」を持ち続けられるかどうかは、本人の情熱と努力だけでなく、家庭環境や時代も無関係ではないと思います。
私たちが過ごしてきた「時代」の中で愛する人たちの望む人間になるためにと、押さえつけてしまった、自分だけの「好き」なものがあったかも知れない。
特に女の子として生まれたからこそ、諦めたものが。
今日はそんなことに想いを馳せたお話を聞いてください。
10月に副鼻腔炎を拗らせ、手術をした直後の絶対安静期間、ベッドの上でNetflixをつけたら、今月の「世界配信一位!」と60代の女性と若い男性の恋愛ドラマ『惑い』が紹介された。
珍しいなあと何気なく観はじめたら、主人公のモニカ・グェリトーレの年齢そのままのリアルな皺、気品ある自然な美しさに惹きつけられた。
幼い頃、憧れた大人の女性の落ち着きや人間臭さ、自然に歳を重ねた姿だ。
懐かしいのにそれが今とても新鮮! と感じた。物語の設定が南イタリアの美しい島で、素敵なホテルを切り盛りしている彼女の豊かな経済状況や恋人がカッコ良すぎるなど、現実的ではないなとも思ったが、若い人のドラマもそうだよなと思い直したり、60代の肉体の堂々たるセックスシーンにドキドキ……。
居心地の悪さを感じて、自分の世代のこういう姿をいかに普段見慣れない環境にいるのかと気付かされたりで心が忙しい。
彼女の娘時代は父親に大切に守られていて、大きな決断は父の価値観で決められる。
そして結婚して母になり、過去の選択に心が捩れ出し、その捩れが愛する我が子のトラウマになってしまう。そのトラウマゆえか、長男の母に対する愛情は強く、突然現れた若い男が母を騙して傷つけると信じて疑わない。
一方、若い男と関係を持ってから、母としての罪悪感にさいなまれていた彼女が徐々に恋愛の喜びだけでなく、怒り、疑い、嫉妬に苦しむことも含め、生き生きと美しくなっていく姿は興味深い。
自分の心で肌で感じることが、生命力を蘇らせるのかもしれない。こんなに辛くてみっともない自分になるなら、もうこの恋愛はやめるべき! となりそうだが、彼女は段々と強くなっていく。
それは自分の欲しいものがわかったからだ。
愛するが故、母を守ろうとする息子に「私はそんなに守らなくてはいけない弱い、可哀想な人間なのか」と問う姿には、完璧な母ではなかったという負い目からの遠慮は消えていたし、彼女自身が「弱き者」と扱われていることに初めて気付いた瞬間のようにも見えた。
そして彼女は「自分」で選択をする。
誰かが愛してくれるからでも誰かのためにでもなく。それは一人で自分の選択に責任を取ること。本当の自由を60過ぎて彼女は自分で手に入れる。観終わった後、しばらく彼女が私の中に棲みついていた。
数日後、病み上がりの体で出かけた朗読劇のリハーサルで、共演者のドリアン・ロロブリジーダさんに初めてお会いした。
彼女はゲイを公表し、男性の姿でしていたマーケティングの仕事を辞めて、現在はドラァグクイーン一本! 大人気のアーティストだ。
映像で歌やお話を聴いてファンになった。とても知的なうえにピュアで、お話していると楽しく元気になるパワースポットみたい。全身から私はこれが大好き! と楽しんでいるオーラを発して輝いていた。
こう生きると決めたからにはちょっとのことでは動じない落ち着きを湛えて。
ドリアンさんといると、常識の世界線が消えていき、私もやりたかったことをしてみようかな? という気持ちがわきあがってくる。
それが子どもの頃してみたかった小さなお遊びでもいい。
あなたはしてみたいことはありますか? これ、私、大好きなの! という。
MISUZU KANNO
神奈川県鎌倉市出身。第47回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第27回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。代表作は舞台『メアリー・ステュアート』『組曲虐殺』、映画『37セカンズ』『大いなる不在』、ドラマ『アンチヒーロー』『ブラックペアン2』など。映画『アングリースクワッド』が公開中。
文/神野三鈴 撮影/枦木功[nomadica] スタイリング/田口慧 ヘアメイク/奈良井由美
大人のおしゃれ手帖2025年1月号より抜粋
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