【著者インタビュー】
鈴木ともこさんに聞く、ハワイの心地よさの源とは?
山の魅力を分かりやすく伝えるベストセラー『山登りはじめました』の著者、鈴木ともこさんによる最新刊『山とハワイ』。単なるガイドブックではなく、ハワイの歴史や文化にも触れながら、その奥深い魅力を描き出したコミックエッセイです。
主人公の大冒険を
追体験してほしい
――11年ぶりの新著となる『山とハワイ』。ハワイ島にある活火山「マウナ・ロア」への登山と、カウアイ島の「カララウ・ビーチ」のハイキングをメインイベントに、ハワイの自然や文化、歴史を紹介するコミックエッセイです。鈴木さんにとっては初めてのハワイだったそうですが、旅のきっかけは何だったのでしょうか。
鈴木 以前は、ハワイというとお正月に芸能人が行くような典型的なリゾートのイメージで、自分が積極的に行く場所とは思っていなかったんです。でも、もともと山登りが好きなこともあって、「ハワイにある山って、どんな山なんだろう……?」と調べてみたら、海底からそそり立っている世界最大の山があると知って。強烈に惹かれたんです。その「マウナロア」という火山、そして「カララウ・トレイル」という断崖絶壁を歩いた人しかたどり着けない秘境の地。そのふたつを自分の目で見て歩いて、本にしたいと思ったのがきっかけでした。
――ハワイの自然がもつ壮大なスケール感を表現するうえで難しかったのは?
鈴木 一般的なマンガでは、主人公の目線だけではなく、神様の視点で客観的に出来事を描くものが多いと思うんです。でも本作に関しては、基本的に主人公=私の目線で進めていくように意識しました。それは、私がハワイの冒険で感じたことを読者の方に追体験してほしいから。この本は決してハワイに行こうよ、山に登ろうよ、と呼びかけるものではないんですよね。主人公のともこと一緒に驚いたり、ハラハラしたり、感動したり……。そうやって、私と旅しているような感覚で読んでいただけたら嬉しいです。
――旅の楽しさだけでなく、ハワイの歴史についてもしっかり描かれているのが印象的でした。
鈴木 ハワイに行った時点では、山登りの体験と街の観光を本にしようとしか思っていなかったんです。でも実際に旅をするなかで衝撃的な出来事があって。上巻にも描きましたが、歩いている白人ハイカーのところにハワイアンのドライバーが車を寄せて楽しそうに会話していたと思ったら、車の後輪を猛回転させてゴムの焼ける臭いと笑い声を浴びせて行ってしまった。ガイドの人に聞くと、ハワイアンの中には自分たちの伝統を白人たちに壊された怒りを今も持ち続けている人たちがいるんだそうです。それを知ったのが、本の方向性が変わった瞬間でした。ハワイの魅力を表面的に描くのではなく、ハワイが辿ってきた歴史もきちんと伝えなければいけないと感じました。
ハワイでは、人種も文化も価値観も異なる多様な人々がともに生きてきたからこそ、違いを受け入れてくれる懐の深さがある。ハワイで感じる心地よさの源は、そこにあると思うんです。
――ガイドブックではないとはいえ、本書を読んでいると自分も「リゾートではないハワイの自然に触れてみたい」と思ってしまいます。本格的な登山経験がなくても楽しめる、『大人のおしゃれ手帖』読者におすすめの場所はありますか?
鈴木 山登りをしなくても、ハワイの火山のスケールを体感できる「ハレマウマウ」(ハワイ島キラウエア)を見てほしいです。「地球ってすごい」と圧倒されると思います。そして、空気も人も街並みも優しいハワイ島の「ヒロ」に滞在して、ゆったりとした時間を楽しんでいただきたいです。
――ちなみに、ハワイに限らず、元気に山登りを楽しむためにどんな運動習慣を取り入れていらっしゃいますか?
鈴木 私の場合、本格的な筋トレは全く続かなくて(笑)。駅ではエスカレーターを使わず階段をあがったり、朝に5分程度のスクワットをしたり、髪を乾かしながらつま先立ちしたり……。日常の中で無理なくできる運動をする程度です。
山登りって、すごく体力のある人や、体の頑健な人がやるものだと思われがちですが、決してそんなことはなくて。山頂まで行かずに、山小屋でおいしいご飯を食べて、周辺を散策するだけでも十分に楽しいんです。山はその年代に応じた楽しみ方ができる懐の深い場所なので、ぜひ読者の方にも挑戦してほしいですね。
『山とハワイ 上―登れ!世界最大の山 ハワイ島篇―』
鈴木ともこ
¥1,760(新潮社)
世界最大の山に登り、宇宙に放り出されたような星空を観察。グルメに町歩き、自然も歴史も満喫したハワイ島で、一生忘れたくない景色と人に出会った。
上下巻、全12章オールカラーのコミックエッセイ。
『山とハワイ 下―行け!断崖秘境のビーチ カウアイ島&オアフ島篇―』
鈴木ともこ
¥1,650(新潮社)
空に向かってぐいぐい伸び上がる崖、奇跡のように美しい秘境のビーチ。圧倒されっぱなしのカウアイ島の自然と、町を歩く笑顔あふれる人々との出会いに、「私」の常識がどんどん変わっていく。
写真提供/鈴木ともこ インタビュー・文/工藤花衣
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