【著者インタビュー】窪 美澄さん
「心がくじけたとしても、必ず回復するときがくる」
最新短編集に込めた思いとは?
心がくじけたとしても、必ず回復するときがくる。
そう思わせてくれる、窪美澄さんの最新短編集。
執筆のきっかけや、大人のおしゃれ手帖世代でもある、ご自身の今の暮らしについて伺いました。
抱えていた生きづらさが心のケアで解消することも
「自分は大丈夫」と思っていても、ふとしたきっかけで心身の不調に陥ってしまう可能性は、誰にでもあるもの。
頑張りすぎて疲れた人へ、「完璧じゃなくても大丈夫」とそっと寄り添ってくれるような一冊が、窪美澄さんの連作短編集『夜空に浮かぶ欠けた月たち』です。
物語の軸となるのは、精神科医とカウンセラーの夫妻が営むメンタルクリニック。
悩みを抱えた人々が、周囲の力を借りて徐々に心を回復させていく様が描かれます。
「私自身もいわゆる”心の風邪”を引きやすいところがあって、メンタルクリニックに通っているので、他の人と比べて病院へ行くハードルが低いんですね。
一方で、読者の方から話を聞くと、心が不安定になっていても、病院へ行く人は意外と少ない。それだけが解決策ではないけど、『診断を受けることで楽になることもありますよ』と小説を通じて提示したかったんです」
書く上で意識したのは、読み手にとって分かりやすく、優しい物語であること。
「行間を読ませるような、読み手に任せる小説もありだと思いますが、この作品に関しては、私が伝えたいことを、脚色せずストレートに書きました。出てくる人達もみんな優しくて、現実にはあり得ないと思われるかもしれませんが、小説の中だけは、そういう世界もあっていいんじゃないかと思っています」
昨年は短編集『夜に星を放つ』で直木賞を受賞。
その後の執筆への影響はあったのでしょうか。
「本が売れない時代なので、いかに読んでもらえるかを考えないといけない。読者の方が読みたいものに、上手く自分のカラーを乗せていく方法を見つけて、長く書き続けていきたいです」
プライベートでは、息子が独立してから、ひとり暮らしに。
今の自分に合わせて生活をサイズダウンし、”再編成”している最中なのだそう。
「昨日もちょうど、ワイングラスを捨てたところです。これからは掃除機も軽くて使いやすいものに変えたいし、家具も自分で動かせるサイズのものしか持ちたくない。
息子が赤ちゃんの頃に使っていたおもちゃやベビードレスなど、どうしても捨てたくない思い出品も1箱にまとめています。まだ体力のある50代のうちに少しずつものを手放して、ひとりの身軽な暮らしを作っていきたいですね」
『夜空に浮かぶ欠けた月たち』
窪美澄
¥1,870(KADOKAWA)
同級生に馴染めず学校に行けなくなった女子大生、約束や締め切りを守れず苦しむサラリーマン、娘を可愛いと思えない母親……。メンタルクリニックを営み、さまざまな悩みを持つ患者へ寄り添う椎木夫妻。だが、夫妻にもある悲しい過去があって……。
編集部が選んだ必読書!
昔ながらの道具から伝わる料理の知恵と工夫
『97歳 料理家 タミ先生の台所おさらい帖』
著/桧山タミ
¥1,870(文藝春秋)
料理研究家の草分けである江上トミ氏の弟子であった著者が、97歳になり拠点を移したのを機に、「台所じまい」を決意。半世紀以上にわたって愛用してきた調理道具とともに、これまでの思い出を振り返る一冊。かつて東京オリンピックが開催された1964年にヨーロッパや中東、アフリカを旅し、郷土食を学んだ貴重なエピソードも。
知っているようで知らない「エッセイ」の正体に迫る
『日本エッセイ小史
人はなぜエッセイを書くのか』
著/酒井順子
¥1,760(講談社)
一口に「エッセイ」と言っても、その定義は曖昧。古くは『枕草子』、ブームとなった「昭和軽薄体」、近年の高齢者エッセイまで、日本で生まれたエッセイの歴史を、エッセイストの著者が紐解きます。時代を反映し、ときに社会現象まで巻き起こす「エッセイ」の奥深さに触れることで、エッセイを読む視点も変わりそうです。
写真/三沖直 文/工藤花衣
大人のおしゃれ手帖2023年7月号より抜粋
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