【大人のための絵本】vol.9
モデル・アンヌさんの名作選
雨降りの季節に
気持ちが晴れる絵本
こんにちは、アンヌです。
気持ちが滅入る梅雨。でも、お気に入りの傘があれば気分もアップしそうですよね。
今回は、私のある傘との出会いをお話しします。
長年過ごしたフランスでは、雨の日に日本のように店頭にビニール傘が並んだり、傘袋が用意されることはありません。傘をささない人だって珍しくない。私も土砂降りでない限り帽子でしのいでいました。
その後、日本に戻ってみると、少しの雨でもみんな立派な傘をさしています。街に色とりどりの花が咲いたような光景になり、きれいだなと思いました。
それでも私は、帽子だけ。折りたたみぐらいは持って出たかもしれませんが、たいがいは濡れても気にしないままでした。
その姿を見かねたのは、私の伯母です。たくさん持ってるからと渡されたのは、オリーブ色と紫色の大きな一本。まばらに入った豹柄は主張し過ぎず、上品な傘でした。
「イタリー製なのよ」。
イタリアをそう呼ぶ響きも優雅に聞こえ、私はこれならさそうという気になったのです。
後日、伯母のところに菓子折りを持っていくと、玄関には1メートルはあるであろう大きな壺が。その中にはなんと30本ほどの傘が! 驚く私に、「どれも手放せないの」と笑う伯母。それほど愛着のあるコレクションから、私のために一本選んでくれたなんて!
それからというもの雨が降れば、その傘をさして歩き、どこにも忘れて帰らず、使った後は丁寧に干してたたんでを繰り返してきました。そしてとうとう小さな穴が…。
新品と引き換えに物置に仕舞い込み、その傘の存在さえ忘れた頃。
伯母の訃報が届きました。大往生でした。
親戚が集まる形見分けに、私が見せてもらったのは、バッグやベルトや衣類。どれもこれも保存状態が驚くほど良く、物を大切にしてきた人柄が伺えました。突然「全部、イタリー製なのね」と誰かの一言。その国の呼び名に、例の傘がふと思い出されました。あんなにたくさんあった傘は、わずか5本に。晩年は、身の回りの整理を少しずつ進めていたのだとか。なんという潔さでしょう!その5本は、今では我が家の玄関に並んで、雨降りのお出かけを待っています。
それでは雨続き日々、この2冊で晴れやかに!
『かさどろぼう』
作・絵/シビル・ウェッタシンハ
訳/いのくまようこ
(徳間書店)1,540円
舞台はスリランカ。田舎に住むおじさんは、大きなバナナの葉っぱなどで雨をしのいでいました。ところが町に出かけてみると、色とりどりの傘が!「なんてきれいで便利なものだろう」と感心したおじさんは、一本買って帰ることに。ところがなんと盗まれてしまうのです。再び新品を買いに出かけますが、またしても。一体犯人は? 愉快でほっこりする展開に気持ちが明るくなること間違いなしです。
『たいふうがくる』
作・絵/みやこしあきこ
(BL出版)1,430円
台風が来るからと早めに下校した僕は、不安げに外を眺めます。明日は海に行く約束をしているのに。空はどんどん暗くなり、夕食時には轟音が響き、雨足は強くなるばかり。不安な気持ちを抱えながら布団に潜った僕。海に行きたいという願望から、徐々に空想の世界へと旅立ちます。木炭を使ったモノトーンや低めから捉えた構図など、僕の心の動きに寄り添った描き方は見事。最後に広がる唯一の色使いに、感動すら覚えます。
選・文/アンヌ
モデル、絵本ソムリエ。14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。
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