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大人のおしゃれ手帖 1月号

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大人のおしゃれ手帖
2025年1月号

2024年12月6日(金)発売
特別価格:1420円(税込)
表紙の人:原田知世さん

2025年1月号

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【神野三鈴さん】
連載 「宇宙への旅(わたしの) part1」

大人のおしゃれ手帖編集部

【神野三鈴さん】 連載 「宇宙への旅(わたしの)」

春の息吹が力強く感じられるようになってきました。動植物の力強い生命力にエネルギーをもらって、生き生きと過ごしたいもの。でも体調を崩す人が多い季節でもあります。

特に私たちは、子育てや仕事など、自分のことを後回しに走り続けてきて、体が悲鳴を上げ出すお年頃。かくいう私も、長年、気合いだけで生きてきたツケが溜まって、四年前に大きな脳動脈瘤が見つかりました。

今回は脳手術という青天の霹へき靂れきから経験した脳の不思議を2回にわたって綴ります。
あなたの健やかな日常に少しでも役に立てたらと祈りをこめて。

動脈瘤(どうみゃくりゅう)が見つかったのは、長かった母の介護が終わり、舞台の仕事に戻って、やっと手応えを感じ始めていたときだった。

動脈瘤の大きさと場所が厄介で、身体に負担が少ないカテーテルでの手術は無理。後遺症が残る可能性が高い開頭手術をするしかないという状況だった。
選択肢は、破裂するかもと怯えて暮らすか、リスクの高い手術に挑戦するかの二つ。

丁度、井上ひさしさんの遺作『組曲虐殺』という小林多喜二を題材にした舞台の再演稽古が始まる直前だった。ピアノ演奏で一緒に出演する予定だった夫は降りた方がいいと心配したが、私はマネージャーの華子さんにだけ打ち明け、「降りない」という人生最大の我儘を通した。

もし何かあったら、舞台の上には常に夫がいる。井上さんが生命を削り書き上げた戯曲、あてがきしてくださった最後の作品、同志のような演出家、共演者、理由はいくらでもあるが、なぜ何かあったら大勢の人に大迷惑をかける決断を下すことが出来たのか?

不思議なことに、脳のことをずっと考えているうちに、私の中から第六感が告げる声が聞こえてきたのだ。

「この芝居はやり切れる、それからどうするか決めよう。それでいいね?」
「うん、瘤(こぶ)ちゃん、何とかもたせるよ」
まるで自分の中のちっちゃな人達が会話しているような声が。私はその声を信じることに決めた。

見守る夫や華子さんにとっては本当に辛く不安な日々だったと思う。どれだけ心労をかけたのか、大千秋楽の幕が下り、二人のクシャクシャの笑顔と安堵の涙を見たときに痛感した。

そして私は手術を受けることを選んだ。大きな理由は母も祖父も叔父も皆、脳の病気で亡くなっていて、突然倒れた母は13年間寝たきりになり見送った後に私は鬱を患い、脳障害になった本人の辛さも介護もどんなものか経験していたから。

母方の遺伝なら、先祖からのありがたいメッセージと受け取って、私は破裂する前にこの連鎖を断ち切ろうと決心した。

神様に手を合わせて謙虚な気持ちで祈るとき、人は宇宙のようなこの体の声に耳を傾けているのかもしれない。写真は産神様の鶴岡八幡宮様にて。3歳のときに舞殿にて日舞を奉納した思い出の場所。

最初の病院で、私の瘤(こぶ)の場所が悪く、危険な手術になるという説明を受けているときに、私の中でまた声がした。

「ここで手術してはいけない」今度はざわざわと何人もいる様な感じだった。そのざわざわの騒ぎはどんどん大きくなって、まるで瘤の破裂までのカウントダウンのように感じられた。でも命を預けるお医者さんが見つからない。

八方塞がりになっていたとき、友人から、星野源さんが非常に難しかった2度目の脳の手術を、北海道は札幌にある禎心会病院の上山博康医師と、太田伸郎医師の手に寄って成功させたという話を聞いた。

これもまた不思議なのだがその話の少し前に、夫が友人を介して源さんと出会い、連絡先を交換していた。お話だけでも聞きたいと、夫が源さんに相談すると、全国アリーナツアーの真っ最中だったのにすぐに診察の段取りをしてくれて、ご自分の経験を話し励ましてくださった。

私はもちろん、ただ心配するしかなかった夫はどれほど救われたことだろう。
夫が伝えきれない感謝を述べると「僕が受けたことの御恩送りをしているだけですから」との答えが返ってきて、生死を乗り越えた人が持つ、嵐の後の凪の海のような、静かな大きさを感じた。

人は「誰かのために」動いてくださる人のお陰で生かされているのだと。助かったらこの御恩は、必ず誰かにお送りしますと心の中で手を合わせ、北海道に旅立った。

不思議な導きで上山先生の元までやってきた気がしていたが、この後、名医上山先生のお話に、なるほど! 何ひとつ不思議なことではなかったと知るようになったお話は来月、この場所で。

元気なあなたに会えますように。

手術をすることは周りに内緒にしていたので、心の中でひとり、ひとりの顔を浮かべては感謝していたら、ふっと、私は自分になんと冷たく、愛情が足りない生き方をしてきたことかと気づき愕然とした。
どんなに無様だろうとここまで生きてきてくれたのに。ごめんね、と身体をさすってみた。
ありがとうねとトントンしてみた。考えてみれば、この肉体は日々動いてくれている精密なひとつの惑星のようなもの。
母、父、その先のたくさんの祖先達からのメッセージが詰まった過去からの贈り物なのだ。

MISUZU KANNO
神奈川県鎌倉市出身。第47回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第27回読売演劇大賞 最優秀女優賞を受賞。主な出演作に舞台『メアリー・ステュアート』『組曲虐殺』、ドラマ『マイファミリー』、映画『LOVE LIFE』『37 セカンズ』など。待機作に4月期TBS日曜劇場『アンチヒーロー』、映画『不死身ラヴァーズ』などがある。


文/神野三鈴 撮影/枦木功[nomadica] ヘアメイク/奈良井 由美

大人のおしゃれ手帖2024年5月号より抜粋
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大人のおしゃれ手帖編集部

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