今の住まいに夏支度を Vol.2
今どきの住まいでナチュラルに夏を過ごしたい。
そんな方のヒントになる「夏支度あれこれ」を3回連載でお届けします。
第2回は建築家の渡辺貞明さん。
渡辺さんが、木版画家の奥さまとふたりで暮らすご自宅は、
日本に帰化したアメリカ人の建築家・W.M.ヴォーリズの弟子が設計したという一軒家。
15年前、渡辺さん自らリノベーションを手がけました。
1.すだれ越しの景色を愛でる
玄関を入ると、かすかに香の香りが漂い、まるで古い旅館を訪れたかのよう。
夏の強い光と、室内のほのかな暗さが趣ある情景を紡ぎ、
谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の世界が広がります。
梅雨を迎えるころ軒先にすだれを下げ、夏の到来を感じるのも一興。
「夏はここが一番」と、縁側に置いた文机で木版を彫る奥さまの辻悦子さん。
外すだれが日射しをやわらげ、障子の代わりに吊した御簾が風を通します。
外すだれは窓から20cmほど離して吊すと、直射日光を遮りながら室内には熱がこもらず効果的だそう。
梅の葉がそよぐ様も趣があります。
2.朝夕2回の打ち水がエアコン代わり
中央に手作りの「月見台」を配した庭。
夕方、木々のこずえから水滴がしたたるほど、たっぷり水をまくと、日中の熱気がうそのように引いていきます。
3.涼が宿る夏の室礼
「床材は濃茶のカリン、建具はもともとの木製建具を活かし、古い家をさらに古色蒼然たるたたずまいに仕上げました。
今は白くて、明るいインテリアが好まれるけど、深い軒が作る暗がりの風情がやっぱり好きですね。
部屋が暗い分、庭の緑が美しく映えるのもいい。
もちろん、冬はリビングの奥まで暖かい陽が届くよう設計しています」
冬は絨毯、夏は足ざわりのいい籐ゴザにしつらえを替える。
庭の手水鉢に放ったメダカが夏らしさを演出。
夕闇に浮かぶ軒下の照明は、内外どちらから眺めても美しい。
教えていただいたのは・・・
建築士
渡辺貞明さん
渡辺貞明建築設計事務所代表・一級建築士。
伝統的な日本建築の様式を大切にしながら、現代の暮らしに沿う住まいを提案している。
趣味は茶道。
撮影/枦木功 文/早川ちかこ
『大人のおしゃれ手帖』2015年8月号より
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