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大人のおしゃれ手帖 9月号

大人のおしゃれ手帖

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大人のおしゃれ手帖
2026年9月号

2026年8月6日(木)発売
特別価格:1790円(税込) 
表紙の人:石田ゆり子さん

2026年9月号

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神野三鈴さんエッセイ【地球おさんぽ旅日記】
ポーランド、パリでの滞在記~ある書店での出来事~

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神野三鈴さんエッセイ【地球おさんぽ旅日記】 ポーランド、パリでの滞在記~ある書店での出来事~

地球おさんぽ旅日記

何年ぶりかで1か月の休みを取って、NY、ワルシャワ、パリ、ロンドンと旅をした。

NYでは引越しの片付けの続き、ヨーロッパは夫のコンサートツアーの手伝いなど日常生活とあまり変わらないが、どの国にも1週間近く居られるとなると、その地の暮らしぶりがほんの少しでも垣間見られるようで楽しい。

ワルシャワの街は社会主義の頃の名残なのか、お店の外観がシンプルでドアが小さい。ポーランド語が読めない私には小さな看板の文字だけでは何の店かわからず、怪しく覗き込んでは、あらっ床屋さんでしたか! という感じだ。

珍しく大きめの窓ガラスに「BIG BOOK」と英語で色紙が貼られたお店に出合った。
中には可愛らしいカフェもある。大好物の絵本屋さんと睨んでドアを開けた。決して広くない1階は地域情報誌などが置かれたカフェで、女性たちがお茶を飲みながらおしゃべりしたり、ひとりで読書したりしていた。

御伽話のように可愛い絵が描かれた階段をわくわくしながら上って2階へ。
様々なジャンルの本が壁に陳列してある。部屋の真ん中はイベント用のスぺースになっていた。朗読会でもあるのか、1冊の本が入り口に飾られ、手作りのような素朴なベリーのホールケーキが小さなテーブルの上に、小さなガラスコップと共に慎ましやかに置かれていた。

まだ部屋には入り口に座っている若い男性スタッフひとりだけだった。雰囲気から子どものための本屋かと思ったが、並んでいる本を見るとそうでもないらしい。

入り口に飾られた本のページをめくり、令和の神器、Google翻訳機越しに拝読。飛び込んできた言葉は「暴力や支配を許してきた私のなかの自分は弱い、守られなくてはならないという自惚れ? 光は自分が学ぶことだった、、」。

グーグルさんの翻訳の不思議さを差し引いても、この本がひとりの女性の自立の記録であることはわかった。

スタッフの彼と私の拙い英語と壮大な想像力を駆使した会話によると、ここは市民グループが運営している、女性の支援やジェンダーを超えた学びのための場で、毎週のように様々なテーマの作家や関係者を招いて勉強会をしているそう。
優れた本にはひとりの人間の思想、先人の生きた言葉があると、20代前半くらいの彼は話してくれた。

可愛らしい子ども部屋のような空間で、今、直面している人生の問題を話し合い、学び合っている人たちが存在している。ひとつのホールケーキを人数分に切り分けながら。
それを思い浮かべると、シビアな現実のなかでも、少しずつ前に進んでいると思えてくる。

うん、がんばろうね、私たち。それぞれの場所で。

そしてここでも音楽は、国を超えて人々をひとつにしてくれた。ライブが終わるとそこがどの国か忘れてしまうくらいだ。本当にすべての武器が楽器になればいいのにと祈ってしまう。

ポーランドの人たちと音楽でつながり、幸せな気持ちでパリに移動した。

パリではマレの北、テンプル駅の近くのアパートメントに夫のトリオのメンバーの、若く素晴らしいミュージシャン、北井誉人、小川晋平と4人で滞在した。

育ち盛りのふたりと彼らよりも食欲旺盛な夫の胃袋を満たすのに強い味方になってくれたのが、パリ最古のマルシェ・デ・ザンファン・ルージュ。
なんと400年前、江戸時代の初期からある市場だ。お世辞にもきれいとは言えないけれど、オーガニックの野菜や卵やチーズなどが朝早くから夜まで、平日も開いていて、屋台も出ている市民の食卓に欠かせない存在だ。

朝ごはんの材料を買いにトマトを手に取って品定めしていると、サラダにするならこのボコボコしたほう、煮込むならツルッと丸いやつがおいしいよと教えてくれる。

マッシュルームの香りも嗅いでみて! と鼻にくっつけてくる。触る、嗅ぐ、話す、たまに味見する。新鮮でおいしく安全なものを自分や大切な人のために手に入れるのに、みんな五感総動員の真剣勝負だ。

犬連れも、市場に住み着いている猫もいる。お肉もミルクも卵も野菜もみんな命。命が命を支えている。そして部屋に帰り、みんなでボコボコしたトマトを分け合うとき、生きていることがとても愛おしく、大切に思えてきた。

色々あっても人生って素晴らしいじゃない? と。あっこれが、La vie en Rose(薔薇色の人生)! パリの魔法にかかったかな? 

次はいよいよ我が青春の地、ロンドンへ。

夫婦でコロナ禍に始めた、若い音楽家支援プロジェクト「From ozone till dawn」。見事に才能を開花させた小川くん(右端)と北井くん(左端)。
昨年に続き、2度目のヨーロッパツアー。今では応援しているつもりの私が感動と刺激をもらっている。まだ明るい21時のリュクサンブール宮殿の庭にて。

ナチスドイツに破壊された街の設計図を地下に隠して、ソ連の占領時代を耐え忍び、昔とまったく同じ姿の街を再建させた旧市街。
新しい建造物は一見テーマパークのようだが、ポーランドの人々の祖国への魂が宿っているように感じる。
今、すぐ近くの国、ウクライナの人々が戦い続けている日常と地続きの世界。決して強い国がすべてを奪うことはできない。

MISUZU KANNO
神奈川県鎌倉市出身。第47回紀伊國屋演劇賞個人賞、第27回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。代表作に舞台『メアリー・ステュアート』『組曲虐殺』、映画『37セカンズ』『TOKYOタクシー』、ドラマ『アンチヒーロー』『あんぱん』『時計館の殺人(Hulu)』など。映画『平行と垂直』が8月28日(金)公開予定。


photograph & text: Misuzu Kanno

大人のおしゃれ手帖2026年8月号より抜粋
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