【酒井順子さんエッセイ】リニューアルした神保町・三省堂書店を訪ねて
記事公開日
新書店に願う本の街の未来
神田神保町でリニューアルオープンした、三省堂書店に初めて行ってきました。
本の街である神保町へは、本を求めてしばしば足を運ぶ私。
三省堂書店といえば神保町のシンボル的存在であり、建て替えのために閉まっていた期間は、どこか寂しい気持ちだったものです。
神保町ほどの規模で書店が集まる街は、世界に類がないのだそう。昨今の神保町はインバウンドにも人気の街であり、メインストリートである靖国通りには、外国から来た人々の姿が目立つのでした。
靖国通りの南側には、古書店が軒を連ねています。日差しによる本の劣化を防ぐため、多くの古書店が北向きに店を構えているのです。
そんな靖国通りと明大通りの交差点近くにあるのが、新刊書を扱う三省堂書店。新しいビルに生まれかわり、すっかり洒落た雰囲気となりました。
私とこの書店の出会いは、会社員時代でした。
オフィスが近くにあったため、デスクワークに煮詰まると、資料探しと称して、しばしば三省堂に逃避していたのです。
当時も書く仕事をしていた私は、ランチタイムに三省堂二階の喫茶店で、近くにある出版社の編集者さんと打ち合わせをしていたことも、ここに告白しておきます。
新生三省堂書店はいかに、と足を踏み入れてみると、書棚が全体的に低く、広々と見渡すことができて、かつてとは異なる雰囲気。
二階、三階とそれぞれレイアウトが個性的で、雑貨店やカフェといった今時の書店っぽいコーナーもありました。
ざっと眺めた私は、まだこの書店が自分に向いているのか、よくわかりませんでした。全く馴染みの無い書店では、慣れた書店とは異なり、どのような順路で見ればいいかもよくわからない。
さら湯に入るかのような気分なのであり、慣れるまで、少し時間がかかるのです。
三階のカフェでコーヒーを飲みつつ、私は感慨に耽っていました。
本が売れない時代の今、書店をリニューアルするには勇気も必要だったろうが、よくぞ踏み切ってくださった。
この素敵な書店に入ることによって、本好きになる人が増えたらいいなぁ、などと。
さらに実感したのは、時の流れというものです。平成初期だった我が会社員時代、当時の三省堂の喫茶店で打ち合わせをした若手の編集者さんは今や、会社の偉い人に。
自分も着々と年をとっていますが、しかし神保町は、本の街という顔を変えずに存在し続けています。
今はピカピカのこの書店が古びる頃まで、どうか神保町には、その顔を保ち続けてほしい。コーヒーをすすりつつ、そう願わずにいられない私だったのでした。
酒井順子さん
1966 年、東京生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆業に専念。2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。近著に『ひのえうまに生まれて-300年の呪いを解く』(新潮社)。
文/酒井順子 イラスト/升ノ内朝子
大人のおしゃれ手帖2026年9月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
この記事を書いた人
酒井順子さん酒井順子
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。
大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆業に専念。
2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。近著に『老いを読む、老いを書く』(講談社)、『松本清張の女たち』(新潮社)。
Googleで大人のおしゃれ手帖webをフォロー!
Googleで大人のおしゃれ手帖webをフォロー!




