酒井順子さんエッセイ「同姓同名の人に抱く初めての気持ち」
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同姓同名の人に抱く、初めての気持ち
生まれて初めて自分と同姓同名の人、すなわち「酒井順子」さんに会いました。
その方は、ニューヨーク在住のジャズピアニスト。東京でライブをされるということで、都内のライブハウスにお邪魔したのです。
きっかけを作ってくださったのは、〝同姓同名運動〟をしている、知人の田中宏和さんです。
田中さんは、自分と同じ名前の人を集めて「タナカヒロカズの会」を作っているのであり、一時は一七八人のタナカヒロカズさんを一堂に集めて、ギネスの世界記録認定を得たことも(その後、セルビアの同姓同名さん達に抜かれたそうです)。
田中宏和さんは、同姓同名の人と出会う喜びを他人にも知ってもらいたい、と思っています。
そんなわけで、酒井順子さんというジャズピアニストがニューヨークにいることを知った田中さんは、自身のラジオ番組にかつて私がゲスト出演した時、ニューヨークの酒井さんと電話で繋いでくださったのです。
それから数年、いよいよ東京で酒井順子ライブが開催されるということで、実際にお会いする機会がやってきました。こちらのメンバーは、タナカヒロカズの会に所属する三人の田中宏和さんと、私です。
ジャズピアニストというと、どこかアグレッシブなイメージを持っていた私。きっと激しく個性的な方なのでは、と思い、私は少し緊張していました。
が、予想に反して酒井順子さんは、たおやかな雰囲気の女性でした。
「酒井順子トリオ」の演奏は清いジャズという感じだったのであり、門外漢の私も、演奏に引き込まれます。
演奏を聴いているうちに、私の中には次第に、誇らしい気持ちが湧いてきました。自分が弾いているわけでもないのに、「すごいでしょう?」と自慢したくなってきたのです。
田中宏和さん達は、「そうでしょう、そうでしょう」とのこと。
田中宏和さん達も今まで、たくさんの同姓同名さんに会って、同じような気持ちになっていたのだそう。
今まで、田中さん達はなぜ同姓同名運動にこれほどのめり込むのだろうか、と思っていました。
が、同姓同名の人の活躍が自分ごととして感じられるこの感覚は、親戚が増えたようで、確かに嬉しいのです。
ライブ後、ジャズじゅんさん(区別のための命名。ちなみに私は本を書く仕事なので「ほんじゅん」)と、しばしお話をしました。初対面だけれど、初めてとは思えない不思議な感覚です。
「またお会いしましょうね」とジャズじゅんさんと約束して、ライブハウスを出た私。
確かに、少しクセになりそうな同姓同名運動だったのでした。
酒井順子さん
1966 年、東京生まれ。高校在学中から雑誌『オリーブ』にコラムを執筆。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆業に専念。2003年刊行の『負け犬の遠吠え』がベストセラーに。近著に『ひのえうまに生まれて-300年の呪いを解く』(新潮社)。
文/酒井順子 イラスト/升ノ内朝子
大人のおしゃれ手帖2026年7月号より抜粋
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