書き手の追伸 ~三國万里子さん~
ニットデザイナーとして活躍する三國万里子さんが初のエッセイ集を刊行。
三國さんにとっての「書く」ことと「編む」こと。
大人になった今、過去の記憶をたどることの意味とは―
過去の記憶を物語にして身軽になる
テーマは〝日本画〟。
「秋草図のようなイメージで、右の胸元には雁、左にはそれを振り返っている狐のブローチをつけました」。
遊び心にあふれたこの日のコーディネートについて教えてくれたのは、ニットデザイナーの三國万里子さん。
「気仙沼ニッティング」や「Miknits」のデザインを手がけてきた三國さんによる初のエッセイ集が、『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』です。
「いつも一緒に仕事をしている編集者の方に、何か書いてみない? と言われたのがきっかけ。とくにテーマも決めずにゆるく始まりましたが、書いたものを送るたびに相手が面白がってくれるので、書くのがどんどん楽しくなっていきました。もちろん、書くつらさもわかりましたけど、嫌な感じではなく〝つら楽しい〟みたいな感じで」
書かれているのは、夫との出会い、新潟で過ごした子ども時代、妹であるなかしましほさんとのやり取り、ニットデザイナーとしての始まり……といったエピソード。
そうした三國さんの思い出を追っていくうちに、おのずと読む側も、自分自身の記憶を呼び起こされます。
「書かないか、と声をかけてもらったのが40代半ば。自分の中にあった断片的な記憶が、年を重ねるほどに重く感じられてきて。それを自分のやり方で言葉にすることを、記憶が求めていたのだと思います。そう言うとちょっとカッコつけすぎですけどね。みなさんもそうだと思いますが、過去に傷ついた出来事の中で、決着がついていないことってありますよね。大人になった自分なら、『あのことは自分にとって、どんな意味があったのか』と意味づけできる。そうやって自分なりにけじめをつけることで、気持ちが軽くなることはあるかもしれません」
書きたいことを探しながら進んでいくうちに、いつの間にかしかるべきゴールにたどり着く……という過程は、編むことにも似ている、という三國さん。
「編み物でもただのメリヤス地を編んでいるときって、ラクだけど実は楽しくない。文章を書いていると、自分でもびっくりするような言葉が出てくることがあって。編み物でも、色の組み合わせなどで、同じようなことがあるんです。どちらも、チャレンジを感じていられる瞬間がいちばん楽しいですね」
『編めば編むほど わたしはわたしになっていった』
三國万里子
¥1,650(新潮社)
ニットデザイナーの著者による初のエッセイ集。夫との出会い、学校になじめなかった思春期、温泉宿での住み込みアルバイト…と、その半生が描かれる。表紙に写っている人形は、三國さん自身が見つけた海外の人形作家に特注したものだそう。
編集部が選んだ必読書!
フィンランドの“SISU”から苦難を乗り越える力を学ぶ
『EVERYDAY SISU(シス) フィンランドの幸せ習慣』
著/カトヤ・パンツァル 訳/柳澤はるか
¥1,760(方丈社)
国連の「世界幸福度報告書」で5年連続1位となったフィンランド。その秘訣は、厳しい環境や逆境を乗り越える勇敢さなどを指す特有の概念「SISU(シス)」にあるそう。心身ともに疲れが溜まりがちな今、自分を立て直すヒントを得られる一冊。
快適な暮らしをかなえるためのマンションリノベのノウハウ集
『リノベで暮らしを変える 間取りのレシピ100』
小谷和也
¥1,980(エクスナレッジ)
マンションをリノベーションする際に知っておきたいノウハウをまとめた一冊。デザインや間取りだけでなく、費用や工期に関する基本知識、古いマンションに多い結露や寒さの問題をどう解消するか…など、実用的な内容が網羅されています。
文/工藤花衣 写真/安彦幸枝
大人のおしゃれ手帖2022年12月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
関連記事
-
-
-
-
-
-
PR
-
PR
-
PR