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大人のおしゃれ手帖 6月号

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大人のおしゃれ手帖
2024年6月号

2024年5月7日(火)発売
特別価格:1400円(税込)
表紙の人:桐島かれんさん

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それぞれの更年期 CASE 2
〜飛永かの子さんの場合〜

大人のおしゃれ手帖編集部

閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。
その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか――。
誌面連載「それぞれの更年期」では、聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、
さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。

お話を伺ったのは・・・
飛永かの子さん

1969年生まれ。熊本県出身。短大卒業後、保険会社勤務を経て、システムエンジニアに。2016年、カノコビア&マルシェを開業、2022年閉店。JSAシニアワインエキスパート、CPAチーズプロフェッショナルの資格を持つ。現在は次のステップに向けて勉強中。

ないものねだりでなく

この4月、自身が経営するオリジナルのクラフトビールを扱う酒店を閉じた飛永かの子さん。
6年前の4月に人生の転機として始めた仕事に潔くピリオドを打った。

「お店をやっていた6年間で地域の人たちとつながれました」 
結婚で熊本から東京に来て、子どもを望み、現在も暮らす神奈川県の百合ヶ丘に引っ越した。

「夫が長男だったこともあって、不妊治療に専念しました。仕事をやめて、外出はヨガをしにいくくらいでした。いつ病院から呼び出されても対応できるようにしていたので、友だちと約束もできないし、地域の人たちとも知り合いにくい状態でした」 

5年にわたり厳しい不妊治療を続けたが、45歳で子どもはあきらめた。
そして、30代はじめに資格をとっていたワインセミナーを引き受けるようになった。

「システムエンジニアの仕事をしていたので、そのバランスを取るために、ワインのことを学んだり、ガーデニングに精を出していたんです。そういうことすべてが無駄ではなかったんですね」 

ワイン専門の店をすることも考えたが、ビールを中心にした。
「手頃な価格のワインを食べ物との組み合わせで楽しむこともできますが、極めていくにはすごくお金がかかるんですよね。ビールはどんなに高くても1本1000円くらいで、バリエーションがあります。日常で楽しめるものがいいなと思って」 

あとひと月で47歳というタイミングで「カノコビア&マルシェ」を開く。
かの子さんが開発したクラフトビールのリーフレットのキャッチコピーは〝人生はもっと楽しくなる〟。
それに続く文章には、今もかの子さんが目指す世界が記されていた。

「自由な発想やちょっとした工夫で楽しくなったり、豊かな気持ちになれる。まず、自分を大切にしてみる。時間がないとか、お金がないとか、ないものねだりでなく、自分が持っているものを探してみる。多くのものや、友人、きらめきを持っていることに気付くはず」

カノコビア&マルシェのオリジナルクラフトビールは、酵母が生きているタイプ。
季節に合わせて楽しめるように、軽いものから重めのボディ、やさしいハーブからパンチのあるスパイスまで。
在庫はあと少し。なくなればもう飲むことはできない。
開発には時間も労力もかかったが未練はない。

生活を一変させたランニングとミミズ

お酒は好きだったが、店をしているとどうしても毎日飲むことになり、体調が思わしくない時期があったという。

「更年期もあったのかもしれませんが、早起きができれば改善されるのでは? と思って。それで50歳になった翌日から朝のランニングレッスンに通い始めました」 

お客さんにランニングをしている元気な人がいたのもきっかけだった。
ランニングを始めると、苦手だった早起きができるようになり、時間の使い方が変わった。
体調もよくなった。

「人とつながり、自分ができることを見つけて助け合える世界。そんな人たちが集る場を作りたい」と充実した日々を過ごす。
フルマラソンにも挑戦した。 

ところがコロナ流行の風潮に見舞われる。
ビアフェスやマルシェへの出品もほぼなくなり、飲食店にビールを卸すことも減った。

「お店をしたことで、世の中の仕組みがわかってきたのですが、コロナをきっかけに、世の中の仕組みに疑問を持つようになりました。お金ってなんだっけ? 便利に使うもののはずなのに、お金に支配されている!? と」 

そんな疑問を抱きながら、コロナ自粛期間中に、前から興味があったミミズコンポストを始めた。
シマミミズという種類のミミズに野菜クズなどを食べてもらうコンポストだ。

「始めてみると奥が深くて、ミミズを観察し、試行錯誤しながら、ずっと育てています」 
今では推定一万匹以上のミミズと暮らす。
マンションだが角部屋なのでベランダが広いのも幸いした。
ミミズを育てるためには腐葉土も作る場所も必要だ。

ミミズがつくる良質の土を、ランニング仲間や友人たちにゆずる。
彼らはミミズの健康に必要な卵の殻を集めてくれる。そんな関係が心地いい。

コミュニティガーデンの庭主、佐藤さん(95歳)と。
「地域で人とつながれる小さな場所があればと思って」とかの子さん。お店で出会った人とのつながりが、農作業やシェアリングガレージでも生かされ、日々の暮らしにもいい循環が生まれた。

循環する世界を目指して

コロナ禍を経て、かの子さんは流れるように、ギフトエコノミー(与えあう経済)の実践に乗り出していく。

それが「シェアリングガレージ@百合丘」という形に発展。
知人のガレージを借りて、ゆずりたいモノやコトを持ち寄って、暮らしや人生のあれこれをオープンに話し合う場を企画したのだ。 

そして、今年の1月と3月に義父母を見送り、4月に店を閉める運びとなる。
自分をとりまく環境が変わり、コロナ自粛もおさまって、海外渡航が比較的自由にできるようになり、6月末にはイギリスへ。

地域経済や有機農業を研究している大学院であるシューマッハ・カレッジの短期体験プログラムを受けに行ったのだ。
森の中で授業が行われ、食事は大学敷地内で育てた野菜が中心。
カレッジ設立者の哲学者、サティシュ・クマール氏にも会った。

「人間はHUMAN BEINGであって、HUMAN DOINGではないと聞いたことが心に残っています」 
人はいるだけで素晴らしい存在だという意味だ。

「今は今後に向けて学ぶ日々です。実家のある熊本で『食べられる森』をつくりたいんです。自分が影響を受けた本をシェアできる文庫も開きたい」 

かの子さんの夢は大きいけれど、着実に足元から始めている。
シェアリングガレージに続いて、近所の知人の庭を借りて、ささやかなコミュニィーガーデンもしている。

「毎週時間をつくって、朝7時から畑に行って作業をして、庭主の佐藤さんとお茶したり、朝ごはんをご馳走になったりしています」 
収穫したジャガイモやかぼちゃでパーティをしたと笑顔で話してくれた。

文庫開設のために、ハンコをつくって、これぞという本に押している。
「チェブラーシカ文庫」と名付けて。

「身近に住む人たちが、お金をできるだけ介さずに、分け合い、譲り受けるネットワークができたら、もっと生きやすくなりますよね」 
ミミズコンポストをして、自宅で出る生ゴミをすべて土に還し、草花や野菜を育てる。
そうしていると、小鳥やカエルもよってきて、マンションのベランダにも循環する生態系ができてきた。

人生の折り返しは50歳

更年期の変化は、ホルモンバランスにしても、一度でがらっと変わるわけではなく、変化は行きつ戻りつして、ときにグラデーションのように起こる。
かの子さんの場合は、40代後半から50代前半にかけて、店の経営をはさんで、2度の大きな変化があった。
自分の子どもを持たない人生へ、そして、お金を持たない経済へと。

いずれも子どもやお金を否定するのではなくて、よりこだわりのない自由な世界に羽ばたいていくようだ。
身近にできる小さなことから、足場を整えて。

インタビューの途中、「50歳のときに人生の折り返しだと思いました」と言うかの子さんに、わたしは「えっ、40歳が折り返しでないの?」と聞きなおしてしまった。
かの子さんは当然のように、明るい声でいった。
「80歳ではやりたいことができないですよ。100歳まで元気でいないとね!」

私を支えるもの

祖母が70歳で始めた写仏を、額縁にいれて大事にしている。
「祖母は好奇心、向上心がある人で、私の尊敬する人でした」

コロナ自粛で時間ができて、念願のミミズコンポストを始めることができた。
「ミミちゃん」と呼んで慈しむ一万匹のミミズの生態を日々観察している。
かの子さんが理想とする「循環する暮らし」の大切な相棒でもある。

『サティシュの学校―みんな、特別なアーティスト(ナマケモノDVDブック)』(素敬 SOK EIパブリッシング)など、サティシュ・クマールの著書に影響を受けた。
『ギフトエコノミー―買わない暮らしのつくり方―』(青土社)も愛読書。
最近のお気に入りは、ウラジーミル・メグレの『アナスタシア』のシリーズ。

聞き手・石田紀佳さん
キュレーター。
手仕事と自然に関わる人の営みを探求。
朝日カルチャーセンター・NHK文化センターなどで季節に沿った手仕事講座を開催。


撮影/馬場わかな 文/石田紀佳 編集/鈴木香里

※大人のおしゃれ手帖2022年12月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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